4-2.海を越えて



――流れるような速さでまた半年が経ち、俺はダンスだけでなく、単独でのモデルの仕事も増えていた。


 正直ダンス以外の仕事にはほとんど興味がなかったけど……松本さんから“将来ダンス一本でいくためにも、今は幅広い仕事をして人脈作りと知名度を高めるべき”と、言われていた。


 だから俺はどんな仕事でも、信頼する松本さんの言う通り全力で取り組んだ。


 

 そうしてさまざまな仕事をする中で、俺はB.W.Dを代表して、米国発の超人気ブランドのアンバサダーに就任することとなった。


 誰もが知る超有名ブランドのアンバサダーは、日本人初。デビュー2年目のアイドルダンサーが快挙を成し遂げたと国内外で大きな話題になっていたようだったけど……。


 俺自身は凄いだとかそんなことよりも、グループの代表として有名ブランドの看板を背負うことへのプレッシャーをただただ強く感じていた。


 





――更にまた数カ月が経ち、慌ただしく仕事をこなす日々の中……久々に、早い時間帯に自宅に帰れる日を得た俺。



 玄関の扉を開けると、若い女物の靴が置いてあった。



「……なぁー、誰か来てんの?」


 お母さんは外出中と聞いていたから、真吾か隆吾か?友達でも連れてきてんのか?


 玄関からデカめの声で聞くと……何やら真吾の部屋からゴソゴソと音がする。



「やっべ……!!弟帰ってきた……。ちょ、櫂ー!今リビング行くわー」


……彼女だな。と、さすがに気付く。

 とりあえず手を洗ってリビングに向かうと……




「――は?!」

「……え、櫂?!嘘でしょ?!」



 真吾の隣にちょこんと腰掛けていたのは…………まさかの、大野だった。



「え、嘘……真ちゃんと櫂って兄弟だったの?!」

「あれごめん、義理の弟いるって話してなかったっけ?」


 そう言えば、祐貴が言ってたっけ。

 大野の好きなやつ……シンちゃん。



「え、なに……付き合ってんの?」

「ふふ、正解~!」


 祐貴から、大野が慶大を目指して猛勉強しているという話は前に聞いていたけど。どうやらまじで受験に成功し、この春から無事に慶大生となったらしい。医学部の真吾とは別の学部だけど、同じキャンパスに一緒に通ってるんだと。






――「ねぇ……びっくりした?笑」


 真吾が飲み物を買いにコンビニに行ってる間、大野と二人リビングで待つ。


「櫂もすっかり有名人だね~、ウケる~。笑」


 相変わらず俺を茶化してくる大野に、無性に懐かしさを感じる。




「──私ねぇ、真ちゃんに出会ったからさくらのこと吹っ切れたんだー……」


 しばらくすると、大野が語り始めた。


 “さくらのこと吹っ切れた”か……。いろいろ、思い出すなぁ。



 宝華学院を辞めてからの大野は、アルバイトをしながら都立高校に通っていた。その頃にバイトをしていたカフェの常連客が真吾だったらしい。

 

 いつも長時間カフェで勉強している真吾に興味を持って……自分も慶大受験を目指すことにしたんだ、とかなんとか言っていた。




「……さくらは……元気にしてる?」


 大野の話を聞きつつも、頭ん中ではそのことばっかり気になって。耐え切れずに聞くと、大野はニヤリと嬉しそうに笑う。



「頑張ってるよー。めちゃめちゃすごいんだよ、さくらー」


 そう言って見せられたスマホの画面には、満面の笑顔で現地の友人らしき女の子達と肩を組んでいるさくら。……うん、良い顔してんな。




 すると、大野はまたスマホを操作して、再び俺に画面を見せてくる。


「……これ。見て」

「え……?」



 そこに描かれていたのは、NY市街の鮮やかな街並み。さまざまなショップが立ち並ぶ中……ある一点に目が留まる。


「あ……これ………………」




 美しい街並みの片隅──ごく自然な位置に、はっきりと描かれた一枚のポスターの絵。


 それは、あの有名ブランドの服に身を包まれた……俺の絵だったんだ───

 

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