3-11.ダンスと仲間と恋人と



――夏休み中、事務所のダンスレッスンに行くと、松本さんから仮契約してるダンサー達に集合がかかった。


 ついに来週から2ヶ月間、オーディションが始まるらしい。


 「えーと、オーディションに合格した者は、Boys With Dreams――略してB.W.Dとして、デビューすることが決まっている。B.W.Dのコンセプトは『ファンと一緒に夢を叶えよう』というもので、海外を視野に入れて…………」



 松本さんによれば、今回のオーディションは事務所に仮契約しているダンサー達だけでなく、一般からも募集を募るらしい。


 ネット上で公開された映像からファン投票を行い、事務所の審査員のポイントとの合計で上位7名がメンバーに選ばれ、デビューできるという。なかなかにシビアなものだった。


 現時点で仮契約を結んでいるダンサーは俺を含めて10名いる。つまりは全員がメンバーに選ばれることは有り得ない。おまけに一般からの公募も。



……ふいと、ある男の顔が浮かんだ。あいつももしかしたら、こーゆーの興味あるんじゃねーかな……?







――レッスン後の帰宅途中、電話の発信ボタンを押す。



「もっしー」

「あ……祐貴?」


 オーディションの一般公募の話を聞いて、真っ先にこいつの顔が浮かんだ。


 祐貴のダンスに掛ける情熱は、言うまでもなく俺以上。中学の頃からこいつのダンスを見てきて、技術不足は多少感じるものの、俺ができないようなダイナミックな動きはなかなかに人目を惹くものだった。


 それに、K事務所のレッスンに通い始め、仮契約の奴らと踊っているときいつも感じていた……「こいつらより祐貴の方がうめーな」と。



 俺が詳細を話すにつれ、電話に出た時のダルそうな声が少しずつ熱を持ち始める。



「俺も……応募していーんかな……俺なんかが……?」


 謙遜してそんな台詞をこぼしてきた祐貴だけど、出たいと思ってんだなぁと分かった。


 それに……俺は知ってる。

 こいつが俺の初LIVEの時、ちょっと切なそうな表情でステージを観てたことを。



「……ま、俺だって落ちるかもしんねーしさ」

「いやいや、お前は落ちねーだろ。笑」


 お前1位通過なんじゃね?とか言いながら笑う祐貴。



「……まぁでも、受けてみよっかな。受けんのはタダだし?笑」

「おう」

「……お前、俺だけ落ちても笑うなよ?!笑」

「笑うか、ばーか」



 電話を切る。……二人共受かったらいーな。



…………でも……受かったら、デビュー……?



 俺はハッとした。


 以前の俺だったら、そもそもオーディションに参加するかどうかを迷っていたはず。それなのに……今となっちゃ何の迷いもなく、祐貴まで誘って『二人共受かったらいーな』なんて考えてる。



「さくら……寂しがるかな……」



 桜のアイコンをタップして、トーク画面を開くも手が止まる。さくらのことだから、当然応援してくれるだろう。……本心は、隠して。


 さくらにまたあんな作り笑顔をさせてしまうことを想像すると、何とも言い表しがたい暗い気分になって……俺はスマホを閉じた。


 

 結局俺は、オーディションのことを伝えるタイミングを逃したまま、翌週を迎えてしまったのだった――

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