2-22.企みチェリーボーイ
――「櫂くん……なに……?」
山口からの返事。俺はさっき光太郎と買い出しに行く道中を思い出しながら話す。
「光太郎さ、もうまじでさくらには全然気持ちなんてねーと思うよ?あいつ素直だから、まだ好きだったら俺とこうゆう付き合いしないんじゃねーかな?」
そう言うと、山口は少しだけ唇を噛んで目を逸らす。まだあまり納得できていないらしい。
「さっきもさ……?酒買い行ってるとき。すげー山口のこと大事に想ってんだなって俺思ったよ」
「……ほんとに……?」
「うん」
ちゃんと想い合ってんのに通じ合えてない2人が、昔の俺らを見てるようでもどかしい。
山口は視線を一旦俺に戻してから、俺の太腿に寝転ぶさくらを見つめた。
「私たちも……さくらちゃんと……櫂くんみたいに……なれるかな……?」
羨望の眼差しをさくらに向ける山口。
……そっか。俺とさくらって……周りからすると、特別な深い絆?があるように見えるのかもしれない。
「……別に俺らみたいになろうとしなくていーじゃん」
「え……?」
「光太郎と山口なりの向き合い方でいいと思うよ」
俺達の場合は、さくらの身体のこともあって、必要以上に気にかけてしまうのもあるし。俺が昔から人の表情を読み取る癖があるから……何かと気付きやすいのもある。
でもそれは、俺とさくらの場合であって……
山口が俺らと同じようになりたいと願うのなら、それは違う気がした。
「……そっか……そうだよね……」
やっと腑に落ちたのか、自分を納得させようと落ち着いたのか分からないけど……山口はさっきまでの鋭い目から元の優しい目に変わっていった。
――「わりわり、遅くなった!笑」
光太郎は、部屋を出ていく前の自分の焦り顔をどこかに置いてきたらしい。すっかりいつも通りのシワシワな笑顔を貼り付けて、電話から戻ってきた。
「長かったな……?」
「ごめんごめん、ちょっといろいろ!」
山口の隣にボスっと腰掛けて、光太郎は新しい缶チューハイに手を伸ばす。
「里帆と櫂、2人で何話してたんだよー?笑」
「別に」
「……何も……話してないよ……」
「おいおい、なんだよ!なんか嫌なんだけどー!笑」
チラッと山口を見ると、頬を赤らめて恥ずかしそうにしている。光太郎の妬いてるような発言が嬉しいんだろう。
「――てかさ?さくらちゃん、どうする?起こす?」
「あぁ……」
さくらは相変わらず俺の太腿の上で微かな寝息を立てながら眠ってる。スマホで時間を確認すると、22:00を過ぎたところだった。
「ベッド連れてこっかな……爆睡してるし。笑」
「うん、そうしてあげな!…………でさ?今夜……その……どこに寝る?」
言い出しづらそうに光太郎はチラチラ俺を見ながら聞いてくる。あまりにも分かりやすい光太郎の言動に、つい笑いそうになった。
俺は口をグッと結んで、酒を買いに行った帰り道の光太郎との会話を、また思い出していた。
――――――
―――
「――櫂……さくらちゃんと初めてシた時さ……、……どんな風に雰囲気作った?」
「えー……んー……どんなんだっけ?笑」
とぼけるしかない。まさか俺が母親を思い出して泣いて……なんて話は、恥ずかしくて言えやしない。
「俺んちさ、いっつも母親とか家政婦さんとか家に誰かしらいるから、家に里帆のこと呼んでもさ……あんまゆっくりしていってもらえなくてさ……」
「里帆ん家は、来てほしくないって言うし……」
……どうやら光太郎と山口はそういった理由から、まだらしい。
「……んで、今夜狙ってるってわけか。笑」
俺が言うと、照れくさそうに光太郎は頭を掻いてる。
「いやぁ~でも、むずいよな!里帆が嫌がるかもしんないし!笑」
そう言いつつもやはり今日はチャンスだと思ってるらしく、ひとまず今夜は2人ずつ一部屋で寝ようということになった。
―――
――――――
「……さくらこんなんだし、俺とさくら同じ部屋で寝るわ。光太郎と山口もそうすれば?」
なかなかに良いパスを投げられたと思う。光太郎は急に緊張した面持ちで、隣の山口の応えを待つ。
「……光太郎くんが……いいなら……」
「……まじで?!里帆いいの?……よっしゃ~!!」
……そんな露骨なリアクションしたら、バレんだろーが。笑
でも、素直に喜ぶ光太郎の姿と……その隣で嬉しそうに照れてる山口を見ていたら、なんかよく分かんねーけど、親みたいな目線で安心している俺だった――
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