2-21.萌えるギャップ



――外が少し肌寒くなってきて、俺たちは室内に入った。ルーフガーデンから入ってすぐのところにあるリビングに皆で移動して、広いソファに座る。



「じゃ、飲んじゃいますか〜?!」



 光太郎は楽しそうに冷蔵庫から先ほど買って来た酒を大量にリビングテーブルに広げた。


 残しておいた山口お手製のつまみも用意し、飲み会がスタート。



 中学の頃から佑貴とダンス終わりに酒を飲んだりしてた俺。酒はそんなに弱くないと自覚している。


 見たところによると、山口も顔色ひとつ変わっていないから、アルコールに強い人種らしい。反対に、光太郎はすぐに顔が赤くなって来ている。


 そして……もう一人……


「かーーい……?」


 度数の低い缶チューハイを3分の2ほど飲み終えたさくらは、甘ったるい声で俺の名前を呼ぶ。


「ん?へーき?酔った……?」

「ふふ……かーーい……」


 光太郎と山口が驚いてさくらをじっと見てる視線を感じる。普段と違うこの甘えっぷりに驚いてるようだ。


 もちろん俺も……可愛くてつい頬が緩む。


 しかも酔った口調では吃音が少し穏やかに感じられて新鮮だった。


 語頭の繰り返しはなく、語頭を伸ばすのみ。



「大丈夫か……?」


 残りの缶チューハイを流し込むようにゴクゴク飲むさくら。心配で顔を覗くように聞けば、隣から俺の肩に頭をもたれてきて、横から抱きついてくる。



「かーーい……、すーーき……」


 さくらは突然、俺の頬にキスをしてきた。



「おいおい、さくらちゃん……可愛すぎだろ!なんだそれーー!!やーば〜!!」


 デロ甘になってるさくらを見て大興奮の光太郎。その隣でまたもや浮かない顔をしてる山口。



 あー……この顔ってやっぱ、そうゆうことだよなぁ。気づいてはいたけど、ここで山口の表情の意味が確信に変わった。






――だいぶ酒が進んできた頃。


 光太郎は顔を真っ赤にしてソファの背もたれに体重を預けている。山口はやっぱりかなり強いらしく、最初と顔色ひとつ変わらない。


 さくらはと言うと……俺の太腿の上で、スヤスヤ眠ってしまっていた。



「さくらちゃん、まじで可愛いなぁ……猫みたいだな?笑」


 ヘラヘラした顔でさくらを見てる光太郎。


「お前……可愛いとか言ってんなよ。笑」


 山口への気遣い半分、嫉妬心半分で、光太郎に伝える。



「あ……ごめんごめん!でもなんか……萌えるギャップあんなぁって!笑」


 光太郎は隣の山口が微妙な顔してることなんて気付きもせず、顔を真っ赤にしながら楽しそうに笑ってる。


 すると……山口がついに……



「……光太郎くん……」

「なに?里帆どうした?」


 とぼけた顔して山口を見ている光太郎の隣、山口は……鋭くて儚い目をしていた。



「光太郎くんって……今もまだ……さくらちゃんのこと、好きなの……?」

「は?!?」


 突然の山口の追及に焦り出す光太郎。俺は二人のやり取りを静かに見ていた。……膝の上にさくらの温もりを感じながら。



「え、なんで!?そんなことあるわけないっしょ?」

「でも……いっつも……さくらちゃんのこと見てるし……。……可愛いとか……言って……」



……ほら見ろ。


 そりゃあ目の前で他の子のこと可愛いなんて言われたら誰だって嫌だろう。光太郎は死ぬほど良い奴だけど……どうやら女心には鈍感らしい。



「……ごめん……、軽い気持ちで言ってたわ俺……」


 しょぼくれてる光太郎。本当に無自覚だったのだと分かり、気の毒にも思えてくる。


 やっぱり男女が付き合うっていろいろあんだな。


 さくらに出会う前、恋愛をめんどくさいものだと敬遠してた自分を思い出す。



 それから少しの間、光太郎はその気まずい空気を変えようと必死で山口に弁明していたけど……



――プルルル……


 光太郎がテーブルに置いていたスマホが鳴った。



「……わり、ちょっと出てくるわ……」


 そそくさと部屋を出て行く後ろ姿を、未だに寂しそうな顔で見つめてる山口。




「あのさ……?」


 俺は山口に向けて、声をかけていた――

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