第18話:友達

「やあ」

 翔は、楽しそうに笑いながら、ゆっくりとした足取りで事務所に入って来る。

「……お前……」

 焔は、じっと翔の顔を見る。

「なんでここに……?」

「……何でって」

 翔は、軽く息を吐いた。

「君が請求してきた、あのふざけた金額を準備するのに時間がかかったんだよ、一介の大学生にあんな額準備出来ると思うかい?」

 翔は言う。

「俺としては、十分相場の額だったんだがな」

 焔は意地悪く笑う。

「冗談じゃ無いよ、全く、とにかく……」

 翔は、どさっ、と事務所の机の上に、乱暴に札の束を置いた。

「ほら、要求された額だ、全く……苦労したよ」

「どうも」

 焔はにやりと笑い、札を数える。


 そして。

 最後の一枚をぴし、と弾いて、焔は頷いた。

「……問題無い」

「……そりゃあ良かった」

 翔は言いながら、どっかりと来客用のソファーに腰を下ろした。

「ふう、疲れた……」

 翔が言う。

「なあ」

 翔はじっと焔を見る。

「何だ?」

 焔は無愛想に翔に問いかける。

「疲れた、あと喉が渇いた」

 翔はじっと焔の顔を見る。

「生憎だが、客で無い人間に出せる様なものは無い」

 焔は、ふん、と鼻を鳴らした。

「連れないなあ……せっかく一緒に事件を解決した……」

 翔は、焔を見て軽く笑う。

「『友達』じゃないか」

 その言葉に。

 焔は一瞬、目を見開いて。

 そして……

 そして。

 微かに、笑った。

「……友達、ね」

 こんな自分に。

 そんなものが、出来るなんて。

 焔は、軽く息を吐いた。

「……生憎だが、ビールしか無い」

「それは良かった」

 翔は言う。

「冷たいのがちょうど欲しかったんだ」

 翔は、笑う。

 焔も、釣られた様に笑う。

「ちょっと待ってろ」

 焔は、面倒そうに言い、事務所の隣の生活スペースのキッチンに入る。

 そこにある冷蔵庫から缶ビールを取り出しながら、焔はふと。

 ふと、自分があの青年のペースに巻き込まれているのだ、という事に気づいた。

 だが。

 それは……

 焔にとっては、奇妙な心地よさを感じるものだった。

「『友達』、ね」

 焔はもう一度口に出す。

 そう。

 自分達は、『友達』なのだ。

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