第34話『救いなき戦い』


 キラーラちゃんの攻撃をまともに喰らってしまった俺とルーナ。


「ぐぉっ――」

『きゃぁっ――』


 結果、俺に伝わるのは軽い衝撃のみ。

 しかし、それはルーナという鎧を身に着けていたからに他ならない。


「ル、ルーナァッ! だ、大丈夫か? 怪我はないか?」

『だいじょうぶ。それよりアコン……前』


 大丈夫とは言っても、大鎌が当たった部分の鎧が少し欠けている。

 この鎧がルーナ自身だとして、これはどれほどの怪我に相当するのだろうか?

 本来なら、こんな事をしでかした敵を憎むべきところなのだが――


『ごめんなさいっ。お兄ちゃん……本当に……ごめんっ。でも……私はっ――』


 泣きながら叫ぶキラーラちゃん。

 こんな辛そうにしているロリっ娘を憎むなんて事……俺に出来る訳もない。


 そんなキラーラちゃんに呼応するかのように、のろのろと目が虚ろな男達が俺達を囲もうと動く。

 そのままキラーラちゃんが大ぶりの一撃を仕掛けてきたが。


「ふっ――」


 今度は難なく躱す。

 キラーラちゃんという大鎌を装備していた男は既に限界だったのか、猛スピードで突っ込んできたかと思えばそのまま転んでいた。


 しかし……さっき一瞬体が動かなかったのは気のせいか? 今は何の問題もなく動けるが……。

 そんな事を考えながらも、キラーラちゃんと契約状態にある男が立ち上がるのを油断せずに見つめる。

 だが、それは間違いだった。


「違います会長っ! そいつ、もうキラーラちゃんと契約してないっ!! 今契約してるのは後ろの奴ですっ」


「んなっ!?」


 ヘリオスの警告の通り、確かに倒れている男の腕は既に普通の物になっていた。

 そうして後ろを振り向くと……今まさにキラーラちゃんがこちらに斬りかかろうとしていた。


 キラーラちゃんを装備している男はさっきとは別の男だ。

 どうやら、一瞬で男との契約を解除。そして他の男と契約したらしい。


「ぐっおぉぉぉ――」

『この――』


 なんとか身をよじってキラーラちゃんの攻撃を躱そうとする。

 しかし、またもやアレが来た。


「な……またっ――」

『くっ――合わせ……られない』


 硬直してしまう俺の体。

 その時間はやはり一瞬だが、そこから改めて回避行動を取るのは時間的に不可能だった。


『これで……もぅ……終わってよっ!!』


 そんな気合と共に放たれた4つの鎌。

 容赦も情けもなく、完全に俺の首を刈りに来ていた。


「ぎっぃっ――」

『アァッ――』



 鎧越しとはいえ、首への衝撃はかなりクル。

 だが、その鎧自身であるルーナは俺以上のダメージだろう。

 その証拠を示すかのように、俺とルーナの契約が解ける。




「ぐっ――」

「うぅっ――」


 無様に倒れてしまう俺とルーナ。

 特に、ルーナはひどい。至る所から血を流してうなされている。どうやら強いショックによって気を失っているようだ。


 ルーナを抱え、どうにか退避しようとするが……それを許してくれるキラーラちゃんではない。


『ごめん……本当に……ごめんなさい』


 必死に謝りながら、大粒の涙を流しながら大鎌を振り上げるキラーラちゃん。

 そんな彼女に対し、俺は恨みなんて全く抱かない。

 俺が憎むべきはただ一人。


「この……デヴォルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」 


「くっくっくっくっくっくっくっく。アッハッハッハッハッハッハッハッハ。なんと愉快。調整された道具がこうも揺らぐとは。戦いたくない。辛いと嘆きながら戦う様のなんと美しい事か。素晴らしい。キラーラよ、君は初めて私の心を震わせた精霊だ。人間を憎悪し、たった一つの失われた記憶を追い求めていた君も素晴らしかったが、今のその矛盾を内包した姿……より素晴らしいと言う他ない。感動すら覚えるよ」


 キラーラちゃんとどういう関係なのかは分からないが、確実にあいつのせいでキラーラちゃんは怯えている。

 何か弱みを握られていて、望んでも居ないのに戦わされている。


 平和を象徴するロリ様になんという仕打ち……たとえどんな理由があろうとも許されるものではないっ!!



 そうして――キラーラちゃんによる処刑の大鎌は振り下ろされ――


「アコンッ!!」

『させないっ』


 そこにユーリが割り込んできて、キラーラちゃんの一撃を受け止めていた。

 その手には桜色の大楯。背後に半透明のサクラちゃんの姿も見える。

 話には聞いていたが、あれがサクラちゃんの契約形態という事か。ともかく、助かった。


「すまないユーリ。そしてサクラちゃん、ありがとう」


「いいからルーナ嬢ちゃん連れて下がりなっ」

『ここは私たちに任せてっ』


 二人の言葉に甘え、俺はルーナを連れて退いた。


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