第33話『悪魔』
強制的にキラーラちゃんと契約させられてしまった俺。
くそぅ……これから一体俺はどうなってしまうと言うんだ……。さっきのビッチ魔法使いのように、メスガキであるキラーラちゃんと合体してしまって……色々と好き勝手されてしまうというのか!? はぁはぁ(興奮)……。
『さーて。まずはお兄ちゃんが何を考えてたのかちょっと探らせてもらおっかな~~。私くらい契約に慣れた精霊なら契約相手の思考なんて簡単に分かっちゃ――――――』
「ん?」
俺と強制的に契約し、得意げに語っていたキラーラちゃんがいきなり黙ってしまった。
そして――
『………………え? 待って待って? お兄ちゃん何考えてるの? キラーラちゃんと一緒になれるなんて最高? メスガキ様と合法的に合体できるなんてどんなご褒美だよ? ……うわぁ……お兄ちゃんたち……もしかしてただの変態さん?』
「「「ゴハァッ!?」」」
図星を突かれたロリコン紳士達に一万のダメージ。効果はばつぐんだっ!!
『私に対する忌避感とかも全然ないし……。殆ど初対面の私の事をロリってだけで信じきっちゃってるし。これ、支配権を奪うのは無理……だよね? どうしよ。いや、本当にどうしよっかな……。混乱しすぎてどうすればいいのかキラーラ分からないんだけど……』
えと……とりあえず心を読むの止めて貰ってもいいでしょうか?
ただでさえメスガキキラーラちゃんに対してロリコン紳士の俺は相性が悪いっていうのに……心まで読まれると死ぬ(主に俺の心が)。
『うーん……相性悪いのはお互い様なんだけどねーー。なんか、人間を恨んでる自分が馬鹿らしく思えてきちゃったし……。変態ロリコンお兄ちゃん達に裏が無いって嫌ってほど分かっちゃったし……。思ったように体も動かせないし……。とにかく契約状態は意味ないから解除しよーっと。これじゃ解放しても意味ないだろうし』
そうして再び光り輝き、俺の目の前に現れるキラーラちゃん。何を考えているのか、「うーん」と唸っている。
「キラーラ……ちゃん?」
「――やーめた。やめやめ。これじゃ割に合わないや。お家かーえろっと」
クルリと背を向け、どこかへ行こうとするキラーラちゃん。
「なっ!? 精霊……貴様、余を裏切るか!?」
「この道具風情が! おじい様に逆らうと言うの!?」
そんなキラーラちゃんの裏切りを看過できるわけもないツマノス王とビッチ王女。
「正直、お兄ちゃん達をここで殺したくないんだよねーー。でも、安心して♡ 王様と王女様はここできちんと殺しとくから♪ そうしないと私も困っちゃうしね♪」
「なっ……貴様、正気か!? この制御キーがある限り、余には逆らえんという事を忘れたか!?」
そうして王様が取り出すのは金色に光る鍵。
だが――
「えーー? そんなの本当に信じてたの~~? もう、お馬鹿さんなんだからぁ。精霊だってその構造は人間とそんなに変わらないんだよ? あなたたち人間はそんな鍵で言う事聞かせられちゃうような仕組みなのかな~~?」
「だ……騙したのか!? 貴様も……あのデヴォルもっ!!」
「くすくす。デヴォルは私の遊びに付き合ってくれただーけ♪ これくらいの遊びは下位精霊の私にも許されてるんだ~~。それじゃ、この肉人形を借りてサクッと――」
「「ひぃっ――」」
仲間割れ? をするキラーラちゃんと王様達。
キラーラちゃんはこの場に居て、結局何の動きも見せなかった目が虚ろで動く気配もない男の一人に近づいていく。
それが何を意味するのかは分からないが、王様とビッチ王女様がひどく怯えている。
そうしてキラーラちゃんと男の手が触れ合う――寸前。
「くっくっく。あぁ、これはいけない。契約違反とは頂けない。仮にも悪魔を称した私がそれを許すと思ったかね? キラーラ……いや、今はあえてX176番と呼ぼうか」
いつの間にそこに居たのか、ツマノス王の後ろに一人の男が居た。
黒いローブで全身を覆っている男だ。声で男だとは分かるが、顔は見せていない。
「おぉっ、デヴォルっ」
「そんな……デヴォル……どうしてここに……」
男の名はデヴォルと言うらしい。王様とキラーラちゃんの会話の中で幾度か出てきた名前だ。
そんなデヴォルの登場に王様は歓喜の表情を浮かべ、対するキラーラちゃんの表情は
「どうしてここに? 愚問だよX176番。私は必要とあればどこにでも現れる。この身はそういうモノだ。君たち精霊も戦いに使われる
突然現れたデヴォルという男。
そいつは偉そうにそう語り、「そんな事より――」とキラーラに向けていた視線をツマノス王へと向ける。
「ツマノス王よ。不良在庫を押し付けて申し訳ない。使える武器だと思ったのだが、どうやら壊れてしまったようだ」
「そ……そうだっ!! デヴォル貴様、あんな使えぬガラクタを余に押し付けおってっ。せっかく余が貴様の為に民を犠牲にしたというに――」
「クククククク。仰る通りだ王よ。あなたはきちんと契約の代価を支払った。ならば、こちらはあなたの望みを叶える義務がある。あなたの望み――それは目の前に居る精霊国家ロリコニアに属する人間全ての抹殺だ。それを果たせぬ道具になど価値はない。
――さて、この意味が分かるかね、X176番?」
「やめてよっ!! 私はキラーラッ。X176番なんて番号みたいな名前じゃない。あの子が付けてくれた大切な名前が私にはあるのっ!!」
ビクリと、キラーラちゃんが身を震わせながらデヴォルに反抗する。
メスガキのキラーラちゃんに相応しくない仕草。
これではまるで……このデヴォルとかいう男を恐れているようじゃないか。
全ての大人にアドバンテージを持つメスガキ様が一人の男だけを恐れる?
なんだその薄い本でありそうな展開は。
俺はデヴォルという未だ顔も見ていない男の事が嫌いになった。
「あの子とは誰かね? 今の君には思い出せないはずだ。そのように『処置』したからね。その記憶を思い出す為。そしてガラクタにならないために君は努力してきた。素晴らしい。泣けるじゃないか。心の底から応援しよう。
――だというのに、これまでの努力をこの一回で無為にするつもりかね? X176番」
「いや、それは……その……私は……」
「今の君がやるべき仕事は王の道具となり、その者達を抹殺する事。そして、たった一体の精霊を連れ帰る事だ。それ以外は何をしてもいいが、それを為さずに逃げ帰る事だけは許されない。君も知っているだろうが、君の代わりなどいくらでも居る。役目を果たせない道具はガラクタ同然だ。それこそ、君は君が蔑んでいたガラクタと同じ運命を辿ることになるかもしれないな。大切な記憶を取り戻せないばかりか、今抱えてる記憶すらも失ってガラクタと化すのが君の望みかね?」
「ひっ――イヤ……そんなの……イヤ」
恐怖に顔を歪ませ、頭を振るキラーラちゃん。
そんなキラーラちゃんに、もはやロリ様を虐めるド屑なのだと確定したデヴォルが更に迫る。
「ガラクタ扱いは嫌かね? 結構。ならばX176番……キラーラよ。君は自身が優秀な道具であると示すしかない、役目を果たすしかない。
彼らを傷つけるのが嫌かね? 否。そんな訳がないだろう? なにせ、君は道具なのだから。捨てられたくない、ガラクタになりたくないという本能以外の欲求以外、君が望むものなどないはずだ。そのような感情、道具には必要ない。道具は大人しくその役目を果たすがよい」
もう……我慢の限界だった。
「こんの……キラーラちゃんを虐めるなぁぁぁぁぁぁっ!!」
「アコンッ――」
そうして俺とルーナの手が自然と触れ合う。
そうして――
「「――契約っ!!」」
今度こそは互いが同意した契約だ。
それに、きっと想いも同じ。
絶対に……絶対に絶対に絶対に……あのド屑で気取った態度のデヴォルとかいう男をぶん殴るっ!!!
「ぶん殴るっ」
『絶対に――ここで倒すっ』
ルーナの契約……鎧を
だが――
「ダメ……嫌……捨てられたくない……消えたくないっ……消えたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
キラーラちゃんが叫びながら目が虚ろになっている男達に触れる。
「――同調っ……契約……そして……解放ぉぉぉぉぉっ!!」
そうしてほのかにキラーラちゃんと男たちの体が光ったかと思えば、次にキラーラちゃん自身がとてつもなく眩い光に包まれる。
そうして……気づけば俺とルーナの目の前に大鎌×4を構えた目が虚ろな男が現れていた。
これは……さっきのキラーラちゃんの変身した武器の姿!?
その証拠に、大鎌の後ろには先ほどと同じように半透明のキラーラちゃんの姿がある。
だが、さっきまでとは違う。
「死んでっ! お願いだから死んでっ。死んでよぉぉぉぉっ!」
がむしゃらに無数の大鎌が振るわれる。
攻撃の予兆などあったものじゃない。
なにせ、キラーラちゃんに操られているであろう男はずっと白目を剝いているし、どういう体の構造をしているのか、普通では考えられない角度からも鎌が飛んでくる。
「ちぃっ――」
『なら――』
これは避けるしかないと、俺は後ろに下がろうとする。
しかし、そこで体が硬直してしまう。
「なっ――」
『えっ――』
それは一瞬の出来事。
だが、戦闘時において一瞬の隙は命取り。
俺は間近に迫った大鎌×4を避ける事も防御する事も出来ず、その全てをまともに喰らってしまった。
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