第31話『守るべきもの』


「「「うっせぇっ! 顔面ババアは永遠に黙ってろっ!!!」」」


「んなっ!?」


 額に青筋を浮かべる顔面ババアことビッチ魔法使いレイラ。

 だが、イラついたのはむしろこっちだ。


 眼中にないみたいに……だと? んなもんあるわけないだろ!!

 なんで俺達ロリコン紳士がお前みたいな体も精神も二十を超えたババアを意識しないといけないんだ。

 せめて後五年くらい巻き戻ってから出直してこいという話である。




『ふ、ふふ。あははははははははははははははははっ。お兄ちゃんたちバッカみた~い♪ それじゃあまるで、実力じゃ私に勝ってるんだって言ってるように見えるよ? ざっこざこのクセに口だけは達者なんだから。ほーら、こうしたらすぐに死んじゃうっ!!』



 そうしてキラーラちゃんが動くとともに、ビッチ魔法使いレイラも動く。

 巨大な鎌が同志の一人を切り裂こうと迫る。

 当然ながら、避ける素振りすらない同志。それどころか、キラーラちゃんを抱きしめようと全力で受け入れようとしているように見える。

 そして――


「んありがとうございますぅぅぅぅぅっ!!」


 ――そんな歓喜の悲鳴と共に、キラーラちゃんの鎌をその身に受けた同志。

 だが――


「な……馬鹿な……。なぜその程度で済んでいるの!? ちょっと精霊!! アンタ、真面目にやりなさいよっ!!」


 満足のいく結果が得られなかったことに憤慨するビッチ魔法使いレイラ。


 そう――同志はキラーラちゃんの鎌をその身に受けて吹き飛ばされた。

 だが、逆に言えばその程度で済んでいたのだ。

 鎌の直撃を受けたというのに血も飛び出ていない。その事がビッチ魔法使いレイラ的には気に食わないらしい。


『くっ……。うるさいなぁ。雑魚お兄ちゃんがあまりにも無抵抗だったから、ちょーーっと気が抜けてただけだよ。ホント、男のくせに情けなーい♪ 少しは反撃したらどう?』


 そんなビッチ魔法使いレイラに返事をしながら俺達ロリコン紳士を煽るキラーラちゃん。

 だが――


「「「断るっ!!!」」」


 吹き飛ばされたロリコン紳士を含め、その場に居るロリコン紳士全員が息を揃えて断固拒否する。



「ロリ様を傷つけるくらいなら……自害した方がマシだっ」


「キラーラちゃんは俺たちが愛するロリっ子……それを傷つけるなんて出来る訳がないだろ!!」


「あぁ……これはマズイ。会長、どうしましょう!? 俺、キラーラちゃんに罵られる度にたまらなく興奮するんですけど!? 新しい扉が開いてしまいそうですっ!!」


 死んでもロリを傷つけない。

 それが俺達ロリコン紳士の会だっ!!


 ――それと、最後に俺に話しかけてきた同志よ。安心しろ。お前はもう手遅れだ……。


「この……どこまでも私を無視して――」


「「「だから永久に黙ってろっつってんだろ顔面ババアっ!! 精神も顔面もババアなんだから墓の下にでも埋まってろっ!!!」」」


 ビッチ魔法使いレイラが何か言おうとしていたが、それを邪魔するように多くのロリコン紳士が至極当然のように罵声を浴びせる。


 というかビッチめ……。キラーラちゃんと同化しやがって羨ましい……。

 同化してなかったら真っ先に墓の下にご招待してやってたところだよ。



「キラーラちゃん……もうやめようよっ。あなたも私たちと同じ精霊でしょ!?」

「なんで精霊だっていうのにそっちについてるのよ!? そいつらはアンタも私たちも兵器としか思ってないクズじゃない!?」


 サクラちゃんとレンカちゃんがキラーラちゃんへと呼びかける。

 だが――


『あはははは♪ バッカみたーい。それじゃあまるで自分達を大切にしてくれるそいつらはそうじゃないって言ってるように聞こえるよぉ? 人間なんて口先ばっかりで私たちをどう使おうかって事しか考えてないのにさ。あなた達は騙されてるだーけ♪ さっすがガラクタは騙されやすいよね~~。ちょーーっと優しくされただけで人間の事を信じるんだから』


 人間なんてみんな一緒と切り捨てるキラーラちゃん。

 どれだけ人間に裏切られてきたのか……それを思うとやるせなくなる。


「そんな事……ない」


 そんなキラーラちゃんに対し、ルーナが声を上げた。

 彼女はまっすぐに半透明のキラーラちゃんを見る。



「私も人間が嫌いだった。でも……アコン達は別。アコンは……ロリコン紳士達は異常なほど私たち精霊を愛してくれてる。だから――私はロリコン紳士を信じるの」


「ルーナ……」


 そんな風に俺達の事を想ってくれていた……のか?

 正直、ルーナはあまり感情を表に出さない子だ。

 だからこそ、俺はよく一緒に行動するルーナが俺の事をどう思っているのか分かっていなかった。


 ロリはロリコンを毛嫌いするもの。

 俺は……そんな風に思い込んでいただけなのかもしれない。


『……気に入らないなぁ』


 ゾクリと。

 さっきまでこちらを見下しきっていたキラーラちゃんの雰囲気が一変する。

 キラーラちゃんはさっきまでの楽し気にしていた笑顔を消し、今はただ一点だけを見据えていた。

 その先に居るのは――ルーナ?



「エデンではいっつも他人を見下したような目で見てた高位精霊様がさ……。そんなガラクタ共と楽しそうに団結しちゃって……。自分が今までに何をしてきたか、覚えてないのかなぁ?」


「っ――!? キラーラ……もしかしてあなた……ゴーストナイトの……」


『うん……そうだよ。あはっ♪ やっぱり覚えてなかったんだぁ。そりゃそうだよねぇ。私なんて末端の低級精霊だもん。高位精霊のA2様がそんな私の事なんて覚えてるわけないよねぇ』


 何やら二人っきりで話を進めるルーナとキラーラちゃん。

 察するにキラーラちゃんは一方的にルーナの事を知っていたようだが……。


『でも、もう大丈夫だよ♪ もう私の事を忘れられないようにいーーっぱい刻んであげるから。あ、でも安心してね? デヴォルから絶対に殺すなって言われてるから殺さないよ? もっとも、殺さなければ何をしてもいいって言われてるけど……ねっ!!』


「ちょっ……この精霊、勝手なぁっ!!」


 そうして素早く移動する魔法使いレイラ。

 どうやら体の主導権がほとんどキラーラちゃんに握られているらしく、本人も動揺している。


 そうしてキラーラちゃんの鎌による一撃がルーナを襲う。

 だが――



「「「させる訳がない(じゃろ)っ!!」」」


「なっ!?」

『うそっ!?』


 俺はキラーラちゃんの鎌を素手で白刃取りの要領でキャッチ。

 ヘリオスは支点である魔法使いレイラの腕をホールド。

 ユーリは魔法使いレイラの首を真後ろからガッツリ掴んでいた。


 他の同志達は邪魔が入らないよう、王様やビッチ王女の警戒に当たってくれている。



「ふんっ。精霊の力も使わずにこれか。中々にやるのぅ――」

「さっきまでと動きが全然違う……。手加減していたというの?」


 ツマノス王はどこか余裕のありそうな態度で。

 ビッチ王女は心底驚いた態度で俺達を評価していた。


 一瞬、王様がなぜあんなに余裕があるのか気になったが――今は目の前のキラーラちゃんに集中する。



「やめるんだキラーラちゃん! やるなら俺達ロリコン紳士をやれっ!! 同じロリ様……もとい精霊同士、本気で傷つけあうなんて間違ってるっ!」


『この……どいてよ雑魚お兄ちゃんたちっ。そいつ殺せないっ!』


「「「どく訳がないだろ(じゃろ)!」」」


『この……なんなのこの馬鹿力!? さっきまで頑丈なだけだった雑魚お兄ちゃんたちがなんでこんな……』


 キラーラちゃんは俺たちの変化に戸惑っているようだ。

 無理もない。さっきまでの俺たちはキラーラちゃんの攻撃を喜んで受け、防御も何もしていなかったんだから。

 だが……それは攻撃がロリコン紳士に向いていたからだ。

 今はその時と状況が違う。



「知らなかったのかいキラーラちゃん? 俺達ロリコン紳士はね……全てのロリの味方であり、盾なんだっ!!!」


「会長の言う通りだっ。俺達を傷つけたいならいくらでも傷つければいい。だが……ロリ様に危害を加えるのだけは看過できないっ!!」


「まぁ……なんじゃ。ムカツク事があるならこいつらを思う存分斬るといいんじゃね? いや、防御が固くてなかなか斬れんじゃろうけど。それでもサンドバッグ代わりにはなるじゃろうし、いつか倒せるじゃろ。なにより、キラーラちゃんがそうしてくれた方がこいつら喜ぶじゃろうし……」



『なんなのこいつらっ!?』

「なんなのこいつらっ!?」



 精霊のキラーラちゃんとビッチ魔法使いレイラの想いが一つになった瞬間だった。

 それが、とても気に食わない。


 てめぇみたいなババアと一緒に過ごしてキラーラちゃんが汚れてしまったらどう責任取ってくれんだあぁん!?


 とはいえ、ああして精霊と契約したビッチ魔法使いレイラを攻撃したらキラーラちゃんにもダメージがいくかもしれないし……。

 これは、強制的に精霊との契約を解除させる方法を模索しておく必要があるかもしれないな。相手がどれだけ憎くても、精霊と契約しているだけで俺達ロリコン紳士は手が出しにくい。


『この……人間のクセに……人間のクセに人間のクセにぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!』

「このっ――待ちなさいよ道具の分際でっ!! この……ギアフレイムッ!」


 そうして強引にルーナを切り裂こうとするキラーラちゃんの大鎌。

 それを操るビッチ魔法使いレイラはやはりキラーラちゃんに振り回されているようでかなり不安定な体勢で攻撃を仕掛けてきていた。魔法を発動して背中に小さな炎の羽を生やし、姿勢制御を頑張っている。


「ありがとうございま……ん?」


 ルーナを襲うその大鎌を体で受ける俺だが、そこで重大な事に気付いてしまった。

 キラーラちゃんにいたぶられるなら本望だし、殴られる度にお礼だって言おう。

 だが、一緒になってビッチ魔法使いレイラまで俺をいたぶってくるのは違うんじゃないだろうか?

 そう思うと――途端にキラーラちゃんになぶられる嬉しさが激減してしまった。


 その時だった――


『この……生身の相手に不本意だけど……お兄ちゃんたちが悪いんだからね? こんなにしぶといとは思わなかった。――この体、使いつぶす事にするよ。ごめんねレイラお姉ちゃん。『解放』を使う』


「なっ!? ま、待ちなさいっ。それならあっちの肉人形で――。そもそも、契約者である私の許可がないと『解放』は使えないってあなた言ってたじゃない!?」


『あはっ♪ レイラお姉ちゃんいい顔だね~。で・も・ね? あれはうーそ♡ ちなみにそれは王様とデヴォルも知ってたよ?』 


「そんな……」


『あ、でもねでもね? 王様は今の契約だけじゃなくて『解放』にもレイラお姉ちゃんが耐えられるかっていうのに興味があるみたいだよ? だから……頑張って♪』


「まっ――」


『それじゃあ……バイバイ、レイラお姉ちゃん♪』


 そうして仲違いの末に、キラーラちゃんは――


『――解放』

 

 そう口にした。


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