第29話『メスガキ』


 ――今のところ、作戦は順調だ。

 作戦の性質上、精霊であるルーナやサクラちゃん、レンカちゃんなどは置いていこうと思ったのだが、そこはルーナの活躍によってクリアした(されてしまった)。

 

「ったく……レイラ様にも困ったものだよなぁ。人間味のない方だとは思っていたがあそこまでとは……」


「おい、滅多なことを言うな。誰に聞かれているか分からんのだぞ?」


 ツマノス王の兵士たちの会話が聞こえる。

 ユーリから話は聞いていたが……やはりクソビッチ魔法使いはクソビッチ魔法使いか。人望が無いようでご愁傷様って感じだ。


 しかし――分かってはいたが、陣地を見る限り撤退する様子は微塵もないな。

 こうなればもう……やるしかあるまい。


「ん? なんだ、あの集団? やけに人数が多いな。それになんだ? 捕縛されてる三人……どこかで見たことがあるような……」


「あれは……ユーリ様とウチの勇者様、それに元騎士団長のヘリオス様じゃないか。なんでこんな所に……敵対していたはずだろ?」


「なんか連行されているように見えるが……もしかして、俺たちが知らない間に何かしらの作戦が決行されてて敵の将たちを捕らえた……とか?」


「マジかよ……。さすがはツマノス王だな。若輩の二人とは訳が違う」


「しかし……やけに厳重に囲ってるな……。たった三人を連行するのに百人くらいの兵士をつけるとは。まぁ、あれだけ手ひどくやられりゃ慎重にもなるか」


 そうしてクソビッチ魔法使いの愚痴を零していた奴らがこちらに気付く。

 そう――俺とユーリ、そしてヘリオスは彼らが言う通り、絶賛連行されている最中だ。


「ほら、とっとと歩きなさ~~もないと容赦しないぞっ!!」


「「「ぐっ――」」」


 つよく引っ張られ、成すがままになる俺達三人。

 そのまま、俺達を連行している者達がずんずんと歩いていく。

 そして――


「「「失礼します」」」


「む? なんだ貴様らは。断りもなく入ってくるとは無礼な……ってユーリ!? そしてお前は……勇者!? 馬鹿な。なぜお主らがここに!?」


「よぉ、数日ぶりだな王様、大将首……取りにきたぜ」


 そうして、ゆるく拘束されていた俺たちはその戒めを解く。

 同時に――


「サクラ……レンカ……元に戻すわ」


 先ほどまで俺を拘束していたルーナ。

 彼女は先ほどまで俺達を連行していた人物……サクラやレンカに触れた。

 一見、俺の目からは何の変化もないように見えるが。


「な!? 姿が変わった……だと。そして貴様らは……精霊!?」


「ふぅ。やっと元に戻れた。化け物よりはマシとはいえ、男の人に化けるのは慣れないわね」

「まぁまぁ、レンカちゃん。おかげでこうして王様の所まで来れた訳だし」


 肩をぐるぐると回すレンカちゃんと、それを宥めるサクラちゃん。そして、その他多くの精霊達。


 そう――彼女たちはルーナの力によってその姿を変えていたのだ。

 ルーナには、精霊の姿を変質させる力があった。

 俺たちがツマノス王の軍に潜入し、王様に降伏させると聞いた彼女たちはその力を使ってその姿をツマノス王が率いる兵士にその姿を変えたのだ。


 そして、ここまで来ればその必要もない。


 この場には、王様の他にはクソビッチ王女様とクソビッチ魔法使い、後は少し不気味だが……目が虚ろになっていて動く気配もない男たちが数百人。


 対するこちらは捕らえられた振りをしていた俺、ユーリ、ヘリオスに加えて兵士の振りをさせていたロリコン紳士達47人と精霊50人。

 数は負けるが、質も考えればこちらが負ける道理などないっ!!


 後はちゃっちゃと王様を捕らえて降伏宣言をさせるか、お持ち帰りしてロリコン化させるだけだ。


「よし……いくぞお前ら」


「「「おぅっ!」」」


 そうして俺たちロリコン紳士達は王様を捕らえるべく、まずはクソビッチ王女様とクソビッチ魔法使いを無力化させるように動く。

 動く気配のない男達に注意を払いつつ、あいつらを包囲して気絶でもさせれば。


 その時、クソビッチ魔法使いのレイラが動いた。


「くふ、くふふふふふふふふ。遅い……遅すぎるわよユーリィィィィィィィ、それに勇者ァァァァァァァァァァァッ!!」


「「「なっ!?」」」


 動揺して動きがぎこちなくなるロリコン紳士達。

 一体どこにしまっていたのか、レイラの手には巨大な鎌が握られていたのだ。

 そうしてレイラは――


「紅蓮の炎に焼かれ、燃え尽きなさいっ。ダル・アガトッ!!」


 巨大な鎌を軽々と振り回しながら、小さな火の玉を飛ばしてきた。

 その一つが俺に着弾して……爆発する。


「だぶぁっ!?」


 衝撃によって弾き飛ばされる俺。

 そして、それは俺だけじゃなかったらしい。


 俺以外のロリコン紳士達も、動きが鈍っていた所に鎌やら火の玉爆発が飛んできたので、避けきられなかったようだ。

 唯一、ユーリだけは鎌も火の玉も喰らわずに避けきっていたが。


「なんじゃ……この魔法は。アコンの『THE・ロリコン』で強化された者達を弾き飛ばすじゃと? それに、その剛力……儂の記憶ではレイラは魔法だけの一芸特化だったはずなんじゃが……」


 そう呟きながら、魔法使いレイラの方を見つめている。


 確かに、俺もあいつとしばらく悪魔狩りの為に行動を共にしていたが、あんな大きな鎌をびゅんびゅん回せるくらいの力を持っているだなんて聞いた事がない。

 更に、俺の『THE・ロリコン』によりかなり強化されたこの体を吹き飛ばす程の魔法を放てるだなんて……。


 そして何より――あれはなんだ?

 俺を含めたロリコン紳士達が一斉に動きを鈍らせた原因。

 それは――巨大な鎌の近くでこちらを見て笑っている、半透明なロリっ子の姿だった。


 薄汚れた白いドレスに黒のニーソックス。

 そんな俺達にとって危険な衣装を身に纏う薄いピンク髪のロリっ子。

 俺たちの視線が自分に向いているのに気付いたのか、そのロリっ子は首を傾げて。


『あれ~~。お兄さんたち、私の姿が見えるの? きゃははっ、凄いすご~い。この姿が見えるのは契約者の人間だけだと思ってたよ~~。ふふっ、こういうのも新鮮で少し面白いかも♪』


 そう言って俺達に語り掛けてくるロリっ子。

 その姿を、魔法使いレイラは忌々しそうに見つめるだけで動こうともしない。




『姿が見えるのならご挨拶っと。はっじめまして~~。私は精霊のキラーラ。あ、でもごめ~ん。そこら辺に居るガラクタ共と違って、私はきちんとした兵器だからね? そこの所、一緒にしないで欲しいな。――って、クソ雑魚なお兄さんたちはここで死んじゃうからどうでもいいね。きゃははははっ』



 完全にこちらを舐め腐っているロリっ子こと精霊――キラーラちゃん。

 彼女が手を振るのに合わせてレイラの持つ鎌がふりふりと動いているように見える。


 しかし……色々と聞きたいことはあるがこの子――まさかとは思うがアレなのか?


「ご、ご丁寧にどうも。俺は精霊国家ロリコニアを守護する盾。ロリコン紳士の会の会長を務めているロリクラアコンだ。キラーラちゃん……だったかな? よろしくね?」


 そうして頭を下げる俺だが、頭を上げるとなぜかキラーラは怪訝な表情を浮かべており。


「お兄さん……私が精霊だってこと、もう分かってるんだよね? それなのになんで頭なんて下げてるの? 何かの作戦? 後ろのガラクタ共もほったらかしで装備してないし。知ってる? 武器は装備しないと使えないんだよぉ?」


「どうしてそのネタ知ってるんだよ!?」


 異世界の精霊がなぜそれを……ってそれは今は置いておこう。


 ――どうやらキラーラちゃんは今までまともに扱われていなかったらしい。

 そう言えば、王様もレイラも精霊を兵器としか見ていなかった。

 それに、この子も――


「そういう言い方はダメだよキラーラちゃん。君はきちんと意志と感情を持った人間……いや、人間以上の存在だ。自分たちの事を武器って言ったり、ましてや他の精霊をガラクタだなんて言っちゃいけない。みんな、生きてるんだから」


 当たり前すぎる事をキラーラちゃんに教える。

 きっと、この子はそんな事も知らずに生きて来たんだろうから。

 しかし――


「あはっ♪ お兄さんみたいに、たまにそう言ってくれる人も居るんだよね~~。で~も~。みーんな私を兵器としか見てない偽善者ばっかり。私、そういう上っ面だけの人が大っ嫌いなんだ~~。きゃはははは」


 キラーラちゃんの心の中に巣食う闇はその程度では晴れなかった。

 それでも、俺たちは言葉を尽くす。


「会長の言う通りだっ。キラーラちゃんは兵器なんかじゃない。俺達なんかよりよっぽど素晴らしい人間だっ」


「とても可愛らしい女の子じゃないかっ!!」


「キラーラちゃんはもっと自分を知るべきじゃっ。兵器としてではなく、自分の可愛さをもっと信じるべきじゃぜいっ!!」


 そうしてヘリオスやユーリも含めた多くのロリコン紳士達が本心からの言葉を投げかけるが――


「うるさいな~~。どうしても自分が正しいって言うんなら人間らしく、暴力に訴えてみればぁ? あ、ごめ~ん。クソ雑魚お兄ちゃんたちじゃ私に勝てないから言葉で何とかしようとしてるんだよね~~? くすくす。やーい。ざーこ。ざこざこざーこ。雑魚お兄ちゃんたち情けな~い。あはははは♪」


 そうして半透明のキラーラちゃんにはやはり実態がないのか、宙に浮き、足を組みながら俺たちを笑った。

 そうして見える――絶対領域。


 黒のニーソックスの更に上にある柔肌が見え、その先にある物まで見えそうで見えないという男を殺しに来ているとしか思えないその仕草。


 ま、間違いない。この子は――メスガキだ!?



「ダメだ……勝てない」


 絶対に勝てない。

 そう確信した俺は、その場で膝を折り、両手を地面についてうなだれるのだった。


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