第27話『罰』
「一体どういうことだっ!?」
ツマノス・デスデリア王が反逆者達のアジトである旧ツェナス村(現ロリロリワールド)から少し離れた所にある軍の野営地へと辿り着き、目にしたもの。
それは、先導させていた2軍の疲弊しきった姿であった。
「も、申し訳ありませんおじい様」
「申し訳ありません。国王陛下」
「謝罪は良いっ! 何があったのか説明しろっ」
そうして王は辺りを見渡す。
争った形跡のある両陣営。
やたらと人が減っているレイラの軍。
腹を押さえて
そして――漂う異臭。
そう――既にこの両陣営は傍から見てボロボロな状態となっていたのだ。
「敵襲でも受けたというのか? まさか奴らが精霊の力を借りて総出で――」
「い、いえ、そういう訳ではありません。昨夜の事なのですが――」
そうしてツマノス・クルゼリアは昨夜の出来事を語る。
まず、自身の軍の兵糧に火を付けられたこと。
襲撃者は闇に紛れ、更に撤退も素早かったことで取り逃がしてしまった事。
それでも、半分以上の兵糧は残り、特に問題はなかったこと。
それとは別に、レイラの軍の元に反逆者であるユーリが訪れた事。
レイラがユーリを討とうとして失敗した挙句、兵たちからの信頼を失い、その多くの兵が敵に寝返るか、去ってしまった事。
そして――朝になって更なる異変が起こったこと。
あまりにも多くの兵が便意を催した事も告げた。
「便意……だと?」
「はい……。おそらく残された兵糧か、川の水かに毒を盛られたのでしょう。反逆者達の狙いが兵糧を焼き尽くす事だと思い込んでしまった私の失態です」
「ふんっ。毒だなんて……やはり所詮は蛮族ね。さぁ、王様。さっさとその狂った精霊と肉人形たちの力であいつらを
「うふふ。お姉さんひっどーい♪ 私は――」
「道具が……。少し黙っていろ」
「あはは。王様もひっどーい♪」
王の傍にいる精霊――キラーラ。
彼女はこれほど無下に扱われているというのに、笑顔を絶やさない。
笑顔と言っても、狂気のそれだが。
「しかし……ユーリや勇者も相変わらず甘いな。その辺りは変わっていないと見える。余なら遅効性の致死毒を混ぜただろう。そうしていれば貴様らは再起不能となる程の打撃を受けていただろうにな」
「ええ、本当に……。あの蛮族どもは甘くて、虫唾が走ります。ですから……ねぇ王様? 一刻も早くあの蛮族たちを――」
繰り返しユーリやアコンを抹殺しようと進言する魔法使いレイラ。
しかし、それを見る王の瞳はひどく冷ややかなものであり。
「あぁ、甘いな。だが、その甘い相手に再起不能とさせられているのが貴様に与えた隊であるという事……理解しておるか、レイラ?」
「ぐ……でも、それは王女様の隊も同じで……」
「一目見ればすぐに分かる。だが、クルゼリアの隊は体調不良で多くの兵が再起不能になっているだけなのに対し、貴様の隊は純粋に脱走者が多い。これはそれだけ多くの兵から貴様が見放されたという何よりの証左であろう? 経験を積む以前の問題。たった一回の采配で兵から見放されるなど、貴様は将としてあまりに無能だ。そんな貴様に指揮を任せた余の失態でもあるが、いくらなんでもこれは度が過ぎている。そうは思わぬか?」
「い、いや、でも。これはあいつらが……」
何かしらの言い訳を紡ごうとして、しかし上手くいかない魔法使いレイラ。
そんなレイラを……ツマノス王は許した。
「まぁ……良い。少し、試してみたかった事もあったのでな。特別に許してやろう」
「あ、ありがたき幸せ……」
助かった……そう安堵する魔法使いレイラ。
しかし――
「――おい、精霊。こやつとも『契約』しろ」
「えっ!? いいのぉ?」
「あぁ、構わん」
ツマノス王と精霊のキラーラがそんなやりとりをする。
どうやらツマノス王は、キラーラに魔法使いレイラと契約させるつもりのようだ。
その会話を聞いて――レイラは顔を青ざめさせた。
「ど、どうかお許しを。それだけは――」
「ちょうど試してみたかったのだ。戦闘力がほぼ無いに等しい奴隷どもでなく、強者がこの精霊の媒介となった場合、どうなるのか……な。貴様のように優秀な魔法使いなら存外、うまく乗りこなす事が出来るかもしれぬぞ? ――やれ、精霊」
「はーい♪ それじゃぁレイラお姉さん。私と一つになろ?」
「いや、やめて……。イヤ……イヤァァァァァァァァァァァァァァァ――」
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