第5話『契約』



 声が聞こえた。

 小さな少女の悲鳴が聞こえた。

 そして、少女は助けを求めていた。


 ならば、こうして眠っている場合ではない。

 俺は未だくらくらする頭を押さえ、少女を安心させるように言った。



「お任せを――可憐なお嬢さん」



 そうして愛しきロリっ娘を見ると、なんとその手足には武骨な鎖が纏わりついていた。

 なんてエロ……じゃない。絶景……でもなく、なんて酷い光景だっ! 吐き気がするっ!


 俺はその鎖を掴んで思いっきり力を入れて引きちぎった。

 今の俺の力は120%。残念ながら負ける気は……しないっ!



「な、なぁっ!? 貴様、勇者……死んだのではなかったのか」


 俺が起き上がったのを見てすごく驚いている王様。


「助けを求める少女が居る限り……俺は倒れないっ!!」


 俺の能力その五……『守護するロリコンの盾』。

 少女を守る場合に限り、どんな致命傷を負っても死なない限りは立ち上がれる能力。そして、ロリコンとしての力を増加させることが出来るのだ。


 正直……実を言うと頭がくらくらしている。


 おそらく、裸体のロリっ娘が未だこの場に居るからだろう。

 俺の守らなければという熱き魂が俺の脳内で暴れまわっているのだ。※貧血で頭がクラクラしているだけとも言う。


「俺の力は上で見ただろう? ロリっ娘への非道な行い。俺達を見逃すというのなら見逃してやってもいいが?」


「くっ……ぬぅっ……」


 王様が憎々し気に俺を見つめている。

 自分たちが俺に敵う訳がない。そう思っているのだろう。


(そうだ、そのまま俺達を見逃せ)


 そう――実を言うと、今の俺ではここから逃げ出せるかとても怪しい。

 いや、正確に言うと俺だけならば楽に逃げられるだろう。


 だが、裸体の少女を抱えてここから逃げ出すとなるとかなり難しい。



 しかし……あぁ、ダメだ。

 目の前がぼやけてくる。

 俺はどうなっても構わない。


 だが――この精霊のロリっ娘だけは何が何でも安全な場所に送り届けなければ。

 そうとも。



「俺はロリコン紳士の会、会長の露利蔵ろりくら阿近あこんっ!!」



 自身の意識を保つため、声を張り上げる。



「全ての幼女を……ロリっ娘を……そして精霊が笑って暮らせる理想郷を作り上げるまで絶対に死ねないっ!! 死んでなるものかっ」


 そうして激を飛ばす。

 

「さぁ、来るのならかかってこいっ! ロリっ娘を傷つけるクソ野郎ども。俺は何が何でもこの子を守ってやるっ!!」


「ぐ……この……変態勇者が図に乗りおってぇっ! やれいっ!」



 そうして王様の号令で飛び出す兵士たち。

 クソッ……自分への渇を入れるつもりが、逆に敵への宣戦布告になってしまった。

 だけど、俺は負けない。


 なぜなら、すぐ傍に守るべき愛しきロリが居るのだから。



 そうして俺が敵に向かって拳を振り上げた瞬間――


「――待ってっ、私もっ!」


 そんなロリっ娘の声が聞こえて……目の前が光に包まれる。


「これは……一体なんなのだ!?」



 光の向こう側で王様の困惑する声が聞こえる。

 しかし、俺にもこの現象はよく分からない。


(もしや、おれの能力『THE・ロリコン』が進化して『シャイニング・THE・ロリコン』とかに進化したとでもいうのか?)


 なんて馬鹿なことまで考えてしまう。

 すると次の瞬間――

 

『えと……THE・ロリコンって……なに?』


「む? これは先ほどのクール系ロリの声!?」



 光が収まり、後ろを振り向くが……居ない。


(おかしい。さっきまで俺の後ろの守るべきロリっ娘が居たはずなのに……)


『ろりっこ? もしかして私の事なの?』


 またもや響く先ほどのロリっ娘の声。

 これは……頭の中に直接響いている?

 一体全体どういうことだ?


『難しいことは後。今は――あの人間たちをやっつけよう』


「いや、君の安全が最優先……って、そのためにもあいつらにはご退場願った方が早いか」


 そうと決まれば――


「くそ。なんだったのだ、今の光は。……っときさ、貴様ぁっ!? なんだその姿はぁっ!?」


 ぶちのめしてさっさとロリっ娘を見つけて脱出しよう――なんて思って構えるとなぜか向こうが騒がしい。

 大方、俺の油断を誘おうと派手に騒いでいるんだろう。


 全く――俺がそんな手に引っかかるわけがないだろう。

 第一、 俺の姿に驚いているみたいだが、別に変わりないじゃないか。


 俺はファイティングポーズを取り、銀の鎧を身に纏った拳でいかに相手を戦闘不能にしようかと思考を巡らせて――



 ……。

 ………………。

 ………………………………。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 自らの肉体を強化する俺の『THE・ロリコン』。

 その能力を得ている俺にとって、鎧とは自分の動きを制限するだけのもの。

 だって肉体よりも柔らかい防具など、身に着けていても仕方ないもの。


 だから俺は異世界召喚されて数か月くらいの序盤を除き、鎧なんて身につけていなかった。多くのロリコン同志を得てからは鎧なんて邪魔なだけのものになり果てたのだ。


 当然、今日も鎧を身に纏った記憶はない。

 なのに、俺は鎧を着ているらしい。自身の体を見れば、頭以外の全身が銀の鎧で覆われていた。


「まさか……いや、間違いない。貴様っ、あの精霊と契約を交わしたのかっ!?」


「契約? 契約っていうと精霊と交わすっていうアレか?」



 精霊が人間と交わす契約。

 契約することによって、精霊は超常の力を発現させるという。

 これが……そうなのか?



『その通り』


 またもやロリっ娘の声が響く。

 俺の頭から響く声。王様達の反応から察するに、向こうにも聞こえているようだ。


『これが契約。この鎧は私自身。あなたの身を守り、敵を打ち砕く最強の矛と、全てを守る盾』 


 自然と腕が上がる。

 右の拳にはごてごてと装飾の施された籠手こてが。

 左の拳には丸い円盤の盾が。


 ――なるほど。


(この鎧は……君そのものなのか?)


『そう、今の私とあなたは一心同体。あなたが精霊を救うというのなら……私はあなたの力になる』


「一心……同体」


『え? これは……なに?』


 頭の中に響く美しきロリっ娘の声。困惑しているようだ。

 しかし、その声に応える余裕が今の俺にはなかった。

 愛しきロリの声だ。緊急時であっても応えるのがロリコン紳士の義務ではあるのだが、この時ばかりは許して欲しい。


 なぜなら――


「うおおおおおおおおおおおおおおおっしゃあああああああああああああっ!!」




 なぜなら今の俺は……過去最大に歓喜に震えているのだから。




「力が……力が漲ってくる!! 今……俺はロリっ娘と一つになっているんだっ!!」



 精霊の少女は言った。今の俺たちは一心同体なのだと。

 そして、この鎧は彼女自身であるのだと。

 ならば――


「絶対に一撃たりとも貰えないっ」


 今の俺が敵の攻撃を受けるという事は即ち、一体となっているロリっ娘も攻撃を受けるという事である。

 そんな事――ロリコン紳士の会、会長の俺が容認できるはずがない。



「くっ。貴様という存在を世に放つわけにはいかん。兵と共に地の底で埋まっておれ。アースバウンドっ!」


「なっ!?」


 そうして王様が放ったのは土の魔法……正気かっ!?

 アースバウンドは周囲の地形を術者が操るというものだ。


 だが、地下に作られたこの小さな隠し部屋でそんな魔法を使ったら――


「ふははははははははっ。この隠し部屋の存在はこの場に居る者しか知らぬ。こうして崩してやれば貴様は生き埋めよっ」




 付いてきた兵士たちを見殺しにして、出口に近い王様ただ一人が颯爽さっそうと逃げる。

 そこに兵士が逃げ込もうとすると、再び王様はアースバウンドの魔法を唱え、唯一の出口も封鎖されてしまった。


『そんな……』


 脳裏に響く悲し気なロリっ娘の声。

 唯一の出入り口は封鎖され、この部屋も崩壊寸前。


 取り残された兵士たちも『終わりだ……』と頭を抱えていたり、塞がれた出口を泣きながら叩いていたりだ。


 だが、今重要なのはそんな事じゃない。


『こんな……こんなところで終わりなの? ぐすっ――』


 絶望的な状況に打ちひしがれ、涙しているロリっ娘。

 愛しき少女が涙を流している。

 ならば、ロリコン紳士としてやるべきことはただ一つっ!!


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」



 その泣き顔を……満面の笑顔に変える。

 俺がやるべきはそれだけだっ!!



「高まれ、俺のロリコン魂っ! 熱く燃え上がれ、俺の『THE・ロリコン』!!」



 俺はどうなってもいい。

 だが、前途ある精霊の少女をここで死なせるわけには……絶対にいかないっ!

 ましてや、泣いたまま人生を終えるなんて、看過できるわけがないっ!!



『え? これは……なに? なんだか……あったかい。いえ、どうしようもなく体が……熱い。力が漲ってくる』


 俺は全身の力を拳に込め、握りしめる。

 そして――



「全てをなぎ倒すっ。バーニング・ロリコン・フィストォォォォッ!!」※ただの萌えるロリコン全力の拳。



 ロリっ娘を守るため、ロリと一体となったロリコン紳士が放つ究極の拳。

 俺はそれを天井めがけて放った。



 ドゴォォォォォォォォンッ――



 響く衝撃音。

 そして――



『太……陽?』



 天井から差し込む太陽の光。

 つまり――



「助……かったの? あの状態から? す、すごい……」


「ん?」


 頭の中からではなく、隣から聞こえる愛しきロリっ娘の声。



「あなたは……一体何者なの?」


 いつの間にか、俺と彼女の合体は解除され、先ほどまで装着していた鎧もなくなっていた。

 そうして隣から俺の顔を覗き込むようにして尋ねるロリっ娘だが――


「ぶほぉっ――」


 相変わらず、ロリっ娘は何も着ていなかった。


 再び俺の中の赤き衝動が高まり、体から飛び出す。※再び鼻血です。



「だ、大丈夫? んんんっ――」



 そんな俺の心配をしてくれる優しきロリっ娘。

 倒れそうな俺の体を必死に支えてくれようとしてくれている。

 しかし、その度に柔らかい感触が嫌でも伝わって来て――



「ああ、そうか……。俺のアガルタ(理想郷)はここにあったのか……(ガクッ)」


「えと……しっかりしてっ。ねぇ、ねぇっ!!」


 必死に俺の意識を留まらせようと揺さぶってくれる優しく愛しきロリっ娘。


 なんて優しく、美しいロリなんだ……。


(ロリ……万歳)


 そうして俺は、こんな素晴らしいロリを救えた事を誇りに感じながら意識を手放した――


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