第44話 賢者の石 第9席
アソキアが【賢者の石】の一員だと言う。
「……」
この発言をどう処理するか。無条件で信じる事はできない。
嘘である可能性を排除したい。探りを入れてみるか。
「ズゥを知っているか」
「ああ、もう会ってたさ? せっかちなのが玉に瑕さ」
「第8席の【霊園】とか言ってたな」
「おかしいさ、ズゥは第6席の【動物園】のはずさ。もしかして嘘つかれたさ」
正解だ。まだ信用はできないが、とにかく【賢者の石】を知っている人間だという事は分かった。
俺も内情は分からないからこれ以上探るのは難しい。一旦この事実は飲み込んで話を進めるか。
「それで、【賢者の石】がなんだってこんなところにいるんだ」
「簡単に言うと。なんか変なものがあったから首を突っ込んだら簡単には出られなくなったさ」
無計画すぎてびっくりした。
まあ、待て。これはつまり、普通ならそんな風に動いても問題ないという事だ。
それくらいの力があるのか。もしくはいつでも逃げられる手段があるのか。
「それは、災難だったな」
「んー、言葉を大分選んでもらってありがとうさ。こんな時ウチの仲間だったらもう酷かったさ。見られたらもう大変、罵倒と嘲笑の嵐さ」
「すごい仲間だ」
「それでも良い奴らだったさ。何にしてもウチの目的は帰還、一緒に脱出さ」
「ひとつ良いか」
「何でも聞くさ」
「どう見てもここに溶け込んでいるが、どれくらいここに居るんだ」
「ん? まあ概ね7日くらいさ」
「溶け込みすぎてないか」
なんかもう現地人の風格がある。とてもここに来てすぐの人間とは思えない。
「あー、まあそういう力がウチにあるさ。説明が難しいけど、こう、集団を作ったり、一員になったりするのが楽になるさ」
「いや、詮索する気はない。話しにくいこともあるだろうしな」
「そういうことにしておいてくれると助かるさ。【賢者の石】のルールで他人に力の事を話す時は殺す時か救う時のどっちかになってたさ」
「物騒なのか、慈悲深いのか分からない集団だな」
「ははは、ウチにもよく分からなかったさ。それでも輝かしい日々だったさ」
懐かしむ瞳だ。この語り方には含みがあるな。
「完全な形で取り戻す事はもうできないさ。それでも思い出を継ぐさ」
「ここから出られたらになるが、手伝える事があったら言ってくれ。野垂れ死ぬかもしれないところを救ってもらった恩もある」
「それは助かるさ。人手がとにかく足りないさ。何せ復活派はウチを除けば【図書館】のライブラと【動物園】のズゥしかいなくて大変なんさ」
【図書館】のライブラ?
初めて聞く名前だ。
「結局【賢者の石】は何人いたんだ。聞く限り4、5人というわけではなさそうだ」
「ん? あー、これは別に隠してないから教えるさ。【賢者の石】は全部で13人の仲良しグループだったさ。最後はまあ、ケンカ別れみたいになっちゃったけど……」
「13人……微妙な数だな」
「そうでもないさ。こっちでは特に意味のない数字だけど、向こうでは結構象徴的で」
「向こう?」
「あ、いやその、ウチらの地元って事。かなり端っこの方だから知らないと思うさ」
この焦りよう。何か隠している?
「知っているかもしれない。名前は?」
「にほ……じゃなくて、ジパングだよ」
「知らないな、聞いたこともない」
「無理もないさ」
最初に言おうとしたほうが本命だ。「にほ」から始まる名前には気をつけよう。
「それじゃあこれからの話をするさ。実を言うとここから出られそうなものについて心当たりがあるさ」
「……どんなものなんだ」
「これさ」
アソキアが出してきたのは2本の棒が絡み合った腕輪だった。
「……それは?」
「距離を無視して2点を繋げる装置さ。これがまともに動けば1発で帰れるさ」
まともに動けば、か。
「とんでもないものが出てきたな」
「やっぱり分かる? どう考えてもオーバーテクノロジー過ぎてメンバー分しか作られなかった逸品さ」
「それが上手く動かないと」
「その通りさ。ここの座標が一定じゃないせいで繋がらないさ。下手すれば空間の狭間で落ち続けて死ぬさ」
「その死に方は嫌だな」
「ウチもそれは嫌さ。だからこの空間の歪みをどうにかしないといけないさ」
「空間の、歪みか」
どうすれば良いのかさっぱり分からないな。まず、空間の歪みってなんだ?
「ぴんと来ないのも仕方ないさ。噛み砕いて言うと、この異常な空間を維持している原因を取り除き、ただの深海に戻せれば帰れるさ」
「原因に心当たりはあるのか」
「ふふーん、7日間遊んでいた訳じゃないさ。ちゃんと目星はつけてるさ。そろそろ出てくるだろうから外を見るさ」
出てくる?
『うふふふふ。みなさぁーん、げぇんきですかー!!!! 村長は今日も元気でぇーす!!!』
「……なんだあれ」
「村長さ」
「あれが?」
「あれが」
「あれをどうするって」
「どうにかするさ」
「あれを?」
「あれを」
馬鹿みたいな大きな声で挨拶をしたそれは。人の姿をしていない。
白くそして湿っている触手が球状に絡み合っている。そこから声が、声がしたのか今のは、耳元で叫ばれたような。
「声……?」
「気づいたさ? あれは声を出してない。出しているのは思念さ。だからすぐそばで言われたように感じるさ。頭に中に直だから耳を塞いでも意味はないさ」
「あれを倒すのか?」
正直なところ勝てる気がしない。それどころか戦闘に入ることさえ間違いな気がする。
「え? あの邪神を? それは無理さ、SAN値直葬されるさ。だからするのは封印か、引っ越しさ」
「封印か、引っ越し?」
「そう。方法は村長が教えてくれるって」
「ん?」
今なんて?
「おーい、村長!! 仲間が増えたから例の件を教えて欲しいさ」
え? 直で?
『うふふふふ、良いでぇすよ』
良いのか……
※※※
【村長】
良い人ではないが、良い触手ではある。
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