第32話 白盾街 街中
「街中まで白いのか」
目がチカチカするほどに建物が白い。ここまで白を強調する意味があるのか。白すぎて何がなんだかよく分からない。
「んぁ……そろそろ着いたでしゅ?」
「ああ、着いたぞ」
「もう街中でしゅ!?」
「そうだぞ。何か問題があったか」
「……入る時何か言われなかったでしゅ?」
「衛兵に止められて一悶着あった」
「シロが起きてればそんな問題起こらなかったでしゅ。だから起こせって言ったのに」
「そうだったのか? シロがいると止められないというのはなんでだ」
「ちょっと見てるでしゅ」
ぱたぱたとシロが飛んでいく。
「あ、あれは白霊鳥様じゃないか!?」
「本当だ!?」
慌ただしくなってきたな。
「どうしていらっしゃったのかは分からないが、おもてなしせねば!!」
「こちらにどうぞ!!!」
もしかして、ここでは御神体扱いなのか?
「消えてしまわれた……」
「お姿を拝見できただけで良い日さ」
姿を消したシロが戻ってきた。
「(見ての通りここはシロの一族との繋がりが特に強い場所でしゅ。シロと一緒なら同じ待遇を受けられるでしゅ。騒ぎにしたくないならやめとくけど、どうするでしゅ?)」
「そうだな、甘えさせてもらうか」
姉さんを休ませるにあたって、できるだけ良い宿を用意したいからな。
「聞くでしゅ!!! この男はシロの宿主でしゅ。くれぐれも不自由のないように頼むでしゅ」
「「「白霊鳥様の仰せの通りに」」」
すごいな本当に、もはや誰がここの領主なのか分からなくなってきた。なんでここまで崇められているんだ。
よっぽどの事がないとここまでにはならないだろう。
「聞きたいでしゅ? ねえ、聞きたいでしゅ? どうしてもって言うならこの街とシロの一族について教えての良いでしゅ」
「いや、自分で調べるから良い」
こういうのは自分で知ってこそだろう。
「あー!! ダメでしゅ!!! シロが教えるでしゅ!!! 他の奴に聞いたりするのは許さないでしゅ!!!!」
「……そうか、なら頼む」
なんでそんなに焦っているんだ。
「これは遥か昔の話でしゅ……」
昔話が始まった。
要約すると、白盾の街の前身にあたる町の長が白霊鳥に救われた。それがきっかけとなって白霊鳥を街の守り鳥として崇める風習ができたようだ。
「……という事でしゅ」
「なるほど。それであんな風なのか」
それでも少し異常なほどだが……
「宿主様!! さあこちらに、この街最高の宿にご案内いたしましょう」
「すまない、甘えさせてもらう」
今は姉さんの事が優先だ。
「ここでございます」
立派な宿だ、ここなら姉さんに相応しいだろう。
「……良かった。やっと落ち着いた」
姉さんを寝台に寝かせる。
「……?」
おかしいな、ダンジョン内で見た時はもっとボロボロだったはずなのに。今の姉さんは俺の記憶にある姿とそんなに変わらない。
疲労の色があるくらいで、明らかに回復している。
「すごいな、寝ていても」
この凄まじい回復力も雷の力がもたらしているのだろうか。
「姉さん、俺は姉さんを守れるくらいに強くなりたいよ。また守られたけどさ。きっとなって見せるから、少しだけ待っていてほしいんだ。俺は絶対に強くなるから」
姉さんの髪を手に通す。変わらない手触りだ。
俺はこれを守るんだ。これを守れるようになるんだ。
まだ足りない、何もかも、足りない。使える物は全部使って強くなろう。俺にはそれしか方法がない。
「いつまでイチャイチャしてるでしゅ」
「時間が許す限り、と言いたいが」
部屋前に人の気配。おそらく意図的に気配を隠していないな。
気付かれる前提で来ている。
「申し上げます。白盾卿ラウンド様からのお呼び出しでございます」
「分かった。行こう」
領主からの呼び出し。拒否すればここには居られないだろう。
しかもここは街の中心に近い場所。逃げるにも不便だ。
「この部屋には誰も近づかぬようにして欲しい。ビクトリウスの雷に焼かれたくはないだろう?」
「っ!? 承知いたしました」
寝起きの姉さんなら知らない人間に一撃入れてもおかしくないからな。
下手に死人は出せない。
「あと、書き置きを残す時間をくれるか。場合によっては宿ごと吹き飛ぶ可能性がある」
「……承知しました」
ちょっと引いてるな。まあそうだろう。
「よし、これで良いか」
姉さん宛の手紙を5通ほどしたためておく。
「待たせたな」
「いえ、参りましょう」
白盾卿ラウンドか、あまり長話はしたくない相手だな。
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