第20話別れの契り
「やだやだやだやだやだ!!!!!! シンについていくんだぁ!!!! オイラは絶対についていくんだぁ!!!!」
「アルカ様、無茶を言わないでください。樹人が力を振るえるのはこの付近のみです。それに元とはいえ長がここを離れるにはそれ相応の理由が必要なんですよ」
「シンから離れたくなぃいいいいいい!!! それが理由じゃダメなのかあ!!」
「当たり前でしょうが!! それにさっきも言いましたが、我々の力はここから離れると著しく弱体化します。足手まといになっても良いんですか!!」
「それはやだぁ!!!!! いつまでもシンを守って頼られて褒められるんだぁ!!!!!!」
えー、現在起きている事を簡単に纏めると。やること終わったから移動するって言ったらアルカが壊れましたとさ。
「ほら!! そこで突っ立ってる元凶の男も何か言ってください!!」
「……そこまで言われるのも悪くない気分だなあ」
「シン……!!」
「馬鹿か!! 馬鹿なんだな!!! 今、そんなこと言ったら余計に話が拗れるだろう!!!」
「はは、つい本音が」
実際求められることは悪い気分じゃない。まあでも、これからもアルカに頼りっきりっていうのは俺の修行にはつながらないから遠慮したい。俺は少なくとも、姉さんとラアよりも強くならないといけない。もしくはそれと同等の功績をあげて認められないといけない。それが全部アルカのおかげになってしまったら何の意味も無い。
「そうだなあ、アルカ」
「シンからも言ってくれよぉ、オイラが必要だってぇ」
「アルカは確かに俺にとって大切だ」
「なら」
「だけどな、俺は目標の達成のために強くならないといけない。だから俺の隣にアルカがずっといると、アルカに守られてばかりで俺は強くなれない」
「そ、そんなことない。オイラだって我慢するし、シンが勝てそうな相手なら譲る!!」
「ごめんなあ、それだとダメなんだ。俺は勝てそうな相手にだけ勝てるようじゃダメなんだ。もっと大きくて強い相手に勝てるようにならないといけない」
「そ、そんなぁ」
覚悟はしていたけど、これは泣かれる。目が虚ろになってハイライトが消えるよりは幾分マシな状態ではあるけど、こっちの精神的ダメージはどっこいだ。ここまでアルカに与えてしまった絶望を覆うような希望を示す必要がある。
「アルカ、この腕と剣はアルカから貰ったものだ。これの位置はなんとなく掴めるか?」
「……うん」
「それなら俺がどこにいても会えるじゃないか。いつも一緒にいなくても俺たちはつながっている。それにここの近くに来た時は絶対に会いに来る」
「……ほんと?」
「本当だ。この腕と剣にかけて。それに、俺が困ったらアルカに頼りに来るかも」
「……いつでも頼ってくれていいんだぞ、なんならずっとここにいても」
「アルカ、それはできない」
「うう……ここでずっと駄々をこねてもシンの気持ちは変わらないよな」
「そうだな」
「ほんとうは、ぜったいに嫌だ、ほんとうは悲しくてたまらない、ほんとうは痛くて死にそうだ、ほんとうは足を切り落としてでも引き留めたい、でもそれをするとシンに嫌われるから、我慢する」
「ごめんな」
「うん、でもね」
あ、これヤバい目だ。完全に目から光が消え……
「オイラ、あげたいものがあるんだ」
「アルカ様!? それはまさか」
「ヨシノ、少し黙っていてくれな」
「っ!? 分かり、ました」
おいおい、威圧というか殺気に近いモノを仲間に向けちゃダメだぞ……
「あげたいものっていうのは、いったい何なんだ?」
「本当は交換になるんだけど、オイラはもう貰っているから」
「……何かあげたか?」
「……まあ、それは置いといて」
「うーん、置いておこう」
たぶん血液とかだろうなあ、腕持ってたのアルカだったし。別に構わないけれど、少し後ろめたい感じなのかな。
「んっ……くっ……はぁ……」
なんか少し色っぽい感じでアルカの指先から液体が染み出してくる、樹液のようなものだろうか。
「はぁっ、はぁっ……これを身に着けて欲しい」
「耳飾り? いや指輪か?」
「どっちでも良いけど、オイラとしては指に嵌めて欲しい」
「そうか、じゃあそうしよう」
樹液が固体化した宝石みたいだから、琥珀の指輪になるか。確か石に込められた意味は大きな愛だったような気がする。ちょっと恥ずかしいな。
「よし、これでいいか。ん?」
おいおい【熟練工】、これは武器でも道具でもなくて宝飾品だぞ。なんでお前が反応するんだ。これの使い方なんて指に嵌めるしか……
「……はは」
こいつは、参ったな。とんでもないものをもらったようだ。
「ありがとう、アルカ」
「うん。元気でなシン」
「……ところで」
「なんだ?」
「近くに村とか町とかってあるかな?」
「オイラここから出たことねえから知らん」
「ですよね……」
とりあえずスカイフィッシュで飛んでみるか。
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【琥珀桜晶(チェリーアンバー)】
桜樹人の命を込めた貴石は、持ち主を致命傷から救うという。それは一種のおとぎ話であるが、心なる想いと真なる触媒によって生み出されたこの指輪はおとぎ話を現実の物とする。
「オイラができる精一杯の贈り物なんだ、それにこれが着いたままなら、シンは死ぬような目に合ってないって事が分かるから安心できるしな」
最強になれと言われても他の妹姉の方がずっと強いので無理と言ったら両親に泣かれ、じゃあ修行に行きますと言ったら姉妹に泣かれたんだがどうしろと言うんだ? @undermine
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