第9話ダンジョンの中でも桜は咲くか
「手持ちはの攻撃手段は……と」
後ろを見ても退路はなかった。もう、進むしかない以上は自分の持ち物の確認くらいはしておこう。装備はだいたい姉さんとラァへの対策だから囓る者にどれくらい効果があるかは分からないが。
「殺傷力のある武器がほぼないのが、問題か」
持ち物と言えば絶縁体で作ったマジックハンドだろ、それに掃除機のスイトール君二号、後は緊急加速のできる靴くらいか。あとは……小ぶりなナイフ。
「これ大丈夫か、あまりにも脱出に気を取られすぎて脱出した後の事全然想定できてなかったみたいだな」
これ、逃げることしかできなくね?
「まあ、敵がでてきたらその時だ」
門をくぐる。さあ、始まるぞ。
「これが人生最後のダンジョンにならないことを祈るか」
ダンジョンがどんなものか、俺は知らない。それは致命的な何かを引き寄せる、神経を尖らせろ。何も見落としてはいけない。
「あー、厳しいな……やっぱり」
門を開けたらすぐに居たよ。
「キシャー!!」
「鳴いた!?」
それに地上に居た奴らよりも動きが鋭い!? ここがホームグラウンドだからか?
「あっぶね!?」
見えてるかは知らねえけど、視界に入った瞬間突進してきやがった。
「キシャ!!」
「思った、より、早いな!!」
攻撃に転じる隙があまりないな、そもそも何を使うべきか。今のところ選択肢は2つ、ナイフで削るか加速効果を使って蹴り飛ばすかだ。
「ナイフ、は無理だな。あまりにもサイズがでかい」
となると、蹴りか。別に健脚というわけでもないが魔法具を仕込んでるからそこそこ威力は出るはずだ。
「おらぁ!!」
突進の勢いのまま壁に激突した囓る者の横腹に蹴りを入れる。
「硬いし、重い……」
ちょっと俺の足の方にダメージがあったくらいだ。これはヤバいぞ、何回でも蹴れるって訳じゃなさそうだ。
「どーしたもんかな」
幸い、突進以外の攻撃手段はないようだから避けることはできる。逃げるか?
「挟み撃ちにでもなったら、それこそ壁のシミにされちまうな」
殺せる手段を探っておきたい、どれくらいやればこいつらは死んでくれるのか。
「ナイフを打ち込んでみるか」
小ぶりなナイフと言えど、これも刃物だ。刺した後に蹴り抜けば貫通くらいするだろう。それが重要な臓器を壊してくれると良いんだが。
「あらよっと」
ナイフが刺さらなかったらまた考えよう。
「お、刺さるは刺さるな」
意にも介さないくらいのダメージしかないようだけど。
「次の突進を避けたら蹴ろうか」
来た。横に避けて、ナイフを蹴る。
「できれば死んで欲しいな!!」
上手く柄を蹴れた。身体の奥底に打ち込めたような気はするが。
「キ、キシャ!?」
「お、初めての反応だな。効いたか?」
「シャアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「怒ったか!!?」
なんかビタンビタン暴れ始めたぞ!?
「ちょ、近寄れ、ない」
不規則な動きをするから避けにくいぞ。
「ダメージはあったみたいだけどな、致命にはほど遠いよなこれ」
もっと押し込めばあるいは……?
「マジックハンドで、押し込むか」
姉さんの電撃に耐えられる性能にしてあるから耐えてくれると信じよう。
「上下に跳ねているのをどう捉えるか、接地したとこに突っ込むか」
傷の位置は把握している。そこに全力でねじこもう。
「いち、にの、ここだ!!」
うげえ、緑色の液体が大量に。
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「うぐぉっ!?」
はね飛ばされた!! 受け身は。
「うおらぁ!!」
ギリギリ受け身に成功した、骨と臓器まで達するダメージはない。けど。
「いってぇ……確実にでかい内出血ができるな」
目の前で大暴れしている囓る者は段々動きを鈍らせていった、周囲に緑の体液をまき散らしながら死んでいった。酷い殺し方だ、俺にもっと力があったなら一息に殺してやれただろうに。
「弱い奴は、戦い方を選べないから仕方がない」
さてと。後はあいつの体内ならナイフとマジックハンドを回収しなきゃならないよな。嫌だな、全身緑色になっちまうぞ。
「ま、回収方法も選べないよな」
手を突っ込んでマジックハンドとナイフを回収する。うへえ、臭いしネバネバするし、倒す度にこれだと気が滅入るぜ。あ、ナイフにヒビが……マズいなあ。
「ふぅ、進むか」
横から嫌な音がした。それはさっきまで聞いていた音。つまりは、囓る者が出す音。
「二体目、こんなに早く来るかね」
ナイフを使えるのはこいつまでかな。
「ん? 風……と花びら?」
さっきまで空気の流れなんて、そんなになかったはず。どうしていきなり風が。しかも、これは桜の花びら。
「
目の前で囓る者が細切れになる。そしてその先には、桜の樹人が居た。
「ヨシノ……?」
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【桜旋風】
咲け、誇り高く。舞え、高貴に。散れ、潔く。
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