最強になれと言われても他の妹姉の方がずっと強いので無理と言ったら両親に泣かれ、じゃあ修行に行きますと言ったら姉妹に泣かれたんだがどうしろと言うんだ?

@undermine

第1話 旅に出られないよ

「シン、お前がこの家を背負って立つんだ。最強の称号を手に入れるんだ」

「期待してるわ。貴方ならできる、きっとよ」

「母さん、父さん、多分それ無理」

「なぜそのような事を言うんだい? お前は我が家の希望なんだ」

「どうして母を悲しませるような事を言うのですか……」

「だって俺より、デーレ姉さんとラアの方が強いから」

「……そ、そんなこと」

「さっきの沈黙が何よりの返答だったよ父さん」


 俺の生家であるビクトリウス家は最強の男を生み出すために代々研鑽を積んできた、何故か屈強な女が生まれてくるビクトリウスの血筋から強い男も生み出せば最高の血であると証明できるらしい。


「お前の可能性はまだ枯れていないさ」

「そんな風なことを言われると思って、俺は今日こんなものを用意してきた」

「これは……映像投射魔法具?」

「はい、ではこちらをご覧ください」


 スイッチを入れて映像を始める。


「えー、今からわたくしが行うのはなぜ私が妹と姉より強くなれないのかについてです」

「シン!! お父さんも言ってたでしょう、諦めてはいけないと」

「その可能性について今からお話します」


 一枚目のスライドは俺たち兄妹のパラメーターを可視化したものだ。能力をAからGまでに分類してまとめてある。能力の尺度としては能力を数値化する魔法具を使った。


「はいこちら、これが俺のステータスです。ご覧になってもらえれば分かると思いますが俺のアベレージはE程度です。しかし、我が姉と妹の平均はAとB+です。この時点でもはや埋められぬ差があることはご理解いただけますか?」

「数字に現われぬ強さもある」

「そうですか……では、次です」


 次のスライドは、父さんが言う数字に現われない強さを表にしたもの。つまるところ生まれたときに身体に刻まれた固有能力である。


「デーレ姉さんの身に宿った力は【雷破砕鎚ミョールニール】、比類なき攻撃力を持つ雷撃を操るというAクラス相当の能力。そしてラアが持っている力は【アンガーハンガーシュガー】、液体、砂、結晶の三形態という多様な使い方ができる万能型のAクラス相当能力。さて、それでは私ですが【熟練工アーキテクト】という能力です。これが何かというと、御存知ですね?」

「……物の操作が上手くなる、だったか」

「そうですね、結局のところある程度要領の良い者がそこそこ時間をかければできることですから甘く見積もってもDランクになるかどうかという感じですね」

「……何か他にもあるはずよ」

「うーん……」

「お父さん?」

「ここまででも良いですが、ダメ押しといきましょう」


 最後のスライドは、さらに数値化がしにくい部分である才能を今までの能力の上昇から算出したもの、簡単に言えばこのまま成長すればどこまで強くなれるかという表である。デーレ姉さんとラアは天井知らずだが、俺は。


「これが、私の才能の限界です。良くてCランク止まりなんです。どれだけやっても、今のデーレ姉さんとラアに勝てないんです」

「お前は数百年ぶりの男子なんだ、きっとこれからだよ」


 ちなみに父さんは婿養子である。


「シン、今日はここまでにしましょう」

「……はい、でも次は諦めて貰う」

「それは分からないわ」


 これで3度目の話だが、どうしても諦めて貰えない。俺なりに説明を尽くしているつもりだが、譲れないらしい。俺だって、本当は、希望を叶えてあげたいけど。


「……行くか」


 俺は何度目かの決心をする、俺の限界を超えて成長するための何かを探す旅をするんだ。それが無謀だろうと、無駄だろうと、やらないよりは、良い。


「ここからなら……」


 皆が寝静まったころを見計らって家を出る。絶対に気取られてはならない。なぜなら。


バチッ



「っ!?」


 電気の弾ける音、それと共にツカツカという足音。


「今回も、バレちまったか」


 膨大な威圧を放ちながら登場したのデーレ姉さんだった。電撃を纏った姿はもはや神々しい。


「ずずっ」


 そして鼻を啜る音。


「ど」

「ど?」

「どぉして、お姉ちゃん達を置いていくの……き、嫌いになったの? それなら言ってよ、直すから、全部全部直すからぁ……うえぇええええん!!」


 全身からバチバチと電撃を迸らせながら泣きじゃくっている。このままだと家が半壊しかねない、というか1回した。


「違うんだ、悪いのは俺だから」

「ほんと? 嫌いになってない?」

「姉さんは大好きだから、泣き止んで? ね?」

「うん……ナデナデして」

「はいはい」


 電気ではねた髪を櫛でとかしながら撫でる、こうしないと感電して酷いことになる。実際なった。


「えへへ、頭撫でるの上手いね」

「そうかな?」


 などと言いつつ、Bプランを発動の準備をする。その名も「撫で代行装置による緊急脱出」。内容は作戦名通りだ。


「あれ? シンちゃん?」

「どうしたの?」

「んーん、なんでもない」

 

 入れ替わって数秒で気づかれそうになったが、返事をする機能を付けていたおかげでなんとかなった。


「初めてデーレ姉さんを突破したぞ、これで俺の旅が」

「お、にい、さ、ま」

「っ!?」

「ラァを、ぐすっ、捨てるの、ですか?」


 呼ばれたときには既に遅かった、身体をがっちりと砂糖で固められ指1本動かせない。ラアまで起きてるとは思わなかったのが俺の失敗だ。


「ラァは……ラァは……お兄様をこんなにお慕いしていますのに、お兄様には伝わらないのですね……ひっく……うう……」

「いいや、伝わってるよ。ラァを捨てるなんてありえない、俺が俺の問題で出て行こうとしてるだけなんだ」

「い、嫌です。ラァの側からお兄様が居なくなるなんて!!」

「はは、少なくとも今日はないよ」

「信用できません、ラァのお部屋に一月監禁します」

「……甘んじて受けるよ」

「うふふ、お兄様と一緒♪ お兄様と一緒♪」


 砂糖で固められたまま部屋に連れて行かれた。1ヶ月はここから出られない。でも、俺はいつかちゃんと旅に出るぞ。


————————————————————


【雷破砕鎚】

天を見よ、気づく前に光は去る。これは最も慈悲深き処刑。

【怒・飢・糖】

あら不思議、怒っているの? 砂糖をどうぞ。あら可哀想、飢えているの? 砂糖をどうぞ。あら大変、砂糖がないの? あなたのハートと交換しましょ

【熟練工】

誰でもできることを、誰よりもすぐにできる。それはとても凄い事、誰も讃えてはくれないけれど。




 







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