いつかの日


「いつもありがとうな」

「どういたしまして」

「こんな愚痴聞いてくれるなんて……。お前はほんと。ほんっといいやつだよ」

「ハハッ」


 だって他人事だから。


 別に口に出してもいいけれど、そうしたら多分、面倒臭いことになる。それくらいはわかる。

 いい子。いいやつ。優しい。穏やか。

 色々言われる。間違っていると思う。だって彼らの話しを聞くのは、結局他人事だからだ。

 辛い話も、恋の話も、恨み言も。泣かれると少し困るけれど、僕は聴く。

 聴くだけだ。

 けれどそれに、案外彼らは気づかない。もしくは気づいていても、そう深くは考えない。

 聴くのはそれしかできないからだ。

 興味が持てない。同情はすれども、それらは心の表面をかすかによぎっていくだけ。結局他人事。僕にはなんの関係もない。

 そんなふうに生きている。

 気づいた時にはそんなふうに、もう何年経っただろう。生きている。


「あの、さ。私......あなたのことが、好きです。付き合ってくれませんか?」

「......ごめん」

「そ、うだよね。こっちこそごめんなさい。突然こんなこと言って」

「ううん。本当に、ごめん」


 変わりたいと思わないわけではない。

 強い感情を持ってみたい。心掻き乱され、思わず涙をこぼすような。そんな興味を、恋を、友情を、望まないわけではない。

 でも僕は変わらない。

 そんな自分の望みすら、ふと心に浮かんでも、どこかにふわりと飛んでって、いつの間にか見失う。

 だからただ、時間が過ぎていく。

 僕は歳をとっていく。

 いい人。優しい。穏やか。誠実。

 いくつもの言葉がよぎっていく。


 そしていつか、僕は出会った。


「あなたはきっと、何も興味が持てないのね」


 僕は笑う。

 ふっと自然に。心の底から。


 やっと辿り着いた。

 いつか望んだ日に。僕の心の底が撫でられる日に。


 その時の光が僕の希望で。


 だけど。


 それすら褪せていくのが、僕の絶望。

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