第586話
「なんだあれ? よく来るのか?」
「うーうん、全然」
地元のガキ共と車座になって作戦会議を開いている。
向こうから見えないようにと、来た道を少し戻って物陰に隠れるぐらいの用心具合だ。
この警戒っぷりに中腰でふとももに両肘を乗せて頬杖をつくフランは呆れ顔である。
「そこまで警戒することなの? ただの冒険者でしょ?」
やれやれ……これだからお嬢様は。
「いいか? 冒険者なんて半グレの進化系みたいな奴らだからな? 油断したら即パクリだぞ。かくいう俺の住む村も、冒険者もどきの賊に襲われたことがある」
「なにそれ? ラグウォルクじゃ冒険者の認証もしてないの? 原始的もいいとこじゃない……ていうかそれもう冒険者じゃないわ」
…………ッ?! ホンマや!
「……まあ似たようなもんだよ。どっちも排除対象でしょ?」
前世で得た知識じゃ、大抵の冒険者は踏み台というかヤラレ役というか……かなりの確率でぶっ飛ばされる役どころなのだ。。
ちょっと絡んだだけなのに一生ものの傷を負うこともしばしば……。
つまり賊と似たようなもんなのかなあ、ってさ?
フランは呆れ顔に溜め息まで追加して言う。
「全然違うわよ。……
「天才か?」
「てんさいだあ?!」
さすが(なんちゃって)魔法使い! 想像を絶するクレバーさだな!
雰囲気に流されず冷静な意見を述べるフランに俺もガキ共も大興奮である。
怪しきは罰しろが掟の異世界で、冷静な意見なんて砂漠に落ちた針みたいなものなのに……凄いやフランさん、マジパねぇ。
……さて、こんな安い持ち上げにも悪い顔をしていない貴族のお嬢様には悪いんだけど、きっちり突っ込んでいこうと思う。
「それで? 認証ってのはどうやってやるんだ?」
「そんなの、ギルドに持っていけば登録判別ぐらいしてくれるわよ」
「あのちっこい漁村に冒険者ギルドがあると思うのか?」
「……無いの?」
一斉に首を振る子供達にフランを答えを知っただろう。
ギルドがある村も無いとは言わないが……少なくとも田舎には無いんだなぁ。
悲しきかな宿屋が儲からないから無い理由と同じで、設置したところで感は否めない。
「フランは冒険者証が本物かどうか分かったりする?」
「……そんな特殊な技術は持ってないわね」
となると、あれが賊か冒険者かの判断はつかないことになる。
「つまり選択肢はブチのめすか放置かの二択になってくるわけだよ。分かるかね、ワトソン君?」
「誰よ、ワトソン。あとハングレー」
「誰それ? 新しい執事?」
「あんたが言ったんでしょ?!」
興奮して声を大きくするフランに子供共々『シーッ』と指を立てた。
これで全員が興奮する特殊な状態になったということで――触らぬ神に祟りなし。
無視して戻る、を選択しよう。
気絶から目覚め掛ける食料を、再びのデコピンで眠りにつかせながら最終決定を告げる。
「村に獣を捌く所ってあるか?」
「あるよ」
「じゃあ村に戻るぞー」
「最初から村に戻れば良かったじゃない……」
げんなりと呟くフランに立ち上がりながら言ってやる。
「それじゃ分け前が減るからなあ……絶対貸し出し料っていう名のお裾分けが発生するし……そもそも、目的をまだ果たしてないんですが?」
「あ」
……このお嬢様、意外と目の前の事に集中し過ぎるタイプだな。
やれやれと肩を竦めると、顔を赤くしたフランがまだまだとばかりに声を潜めて反論してくる。
「あ、あんたなら冒険者ぐらい問題ないんじゃないの? たとえ襲い掛かって来られても……」
いや…………微妙?
特に今は調子が良くない。
そのうえ子供をぞろぞろ引き連れてとなると、安全策を取ることになんら迷いはなかった。
冒険者の中にはバカみたいに強いのもいるし……特殊な魔晶石を持っているパターンもある。
関わらないのに越したことはない。
ただフランには調子が悪いことを告げていないので、この作戦会議といい慎重な態度といい、どうにも変に思ったんだろう。
「変に騒ぎを起こさない方がいいだろ? 俺は当然だけど……お前も追われる立場なんだから」
「……そ、そうだったわ。なんか色々あって……」
……もしかして忘れてたわけじゃないよね?
「あーーーーッ!!!」
『撤収撤収〜』と森を戻ろうとする俺達の足を……なんか聞いたことのあるような声が押し留めた。
……襲われたにしては随分と嬉しそうに聞こえる声だ。
確認の意味も含めて、ここまで案内してくれた少女に視線で問い掛けると……わざわざ口に手を当てたままコクコクと頷かれた。
なんで? 後追いならちゃんと後ろを追っ掛けて来いよ……どうしてきちんとお約束噛ますの? なんで危ないものに引かれるの? どうして行くなってとこに行くの?
車に注意しろと幼い頃から言い聞かされたところで、転生欲が無くならない大人みたいなもんなんだろうな…………って、納得出来るかあ?!
そのまま百八十度反転して、皆でぞろぞろと声の主を確かめに行った。
森の切れ間からは……警戒するために起きた冒険者と――――
何故か血が滴っている大振りの包丁を両手に、それに近寄っていくトトが見えた。
…………いい笑顔やなぁ。
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