第534話 *テッド視点
ターナーが正規兵に何らかの許可を取ってから、ウェギアの街の中に入った。
「なんの許可取ってたんだ? ターナーは別に兵士じゃないだろ?」
「……テッドが持ち場を離れる許可」
「え? そんなのいるのか? だって街の外にキャンプ張ってただけだぞ?」
「……」
露店で売ってた蒸かし芋を渡してやりながら、街の大通りを歩いた。
テトラが匂いに釣られてフラフラしてたから、朝飯代わりだな。
ターナーが何か言いたげな目でこっちを見てるけど、こうでもしないと逸れる可能性もあったんだぜ? 仕方ないだろ。
気温がやや高く夏の気配を感じさせ始める街も、まだ明け方とあっては人通りが少なく涼やかだ。
俺達が歩いている大通りも、いつもは賑わいを見せているのだが……今は閑散としている。
人がいない道の真ん中を歩くのは意外と気持ちいいな?
街の表門から真っ直ぐに進むと代官屋敷が見える。
田舎街だからか貴族街なんてものが無いため、代官屋敷はやたらとデカい。
軍の兵士全員は無理だけど、騎士団と姫様はあそこに泊まっている筈だ。
モソモソと蒸かし芋に齧りつく女子供を置いて、二口で食事を終えた。
……チャノスがいれば水を貰えるんだけどな。
過労で寝てるというアンと合わせて、俺のパーティーは開店休業状態だ。
ふと脳裏を過ぎった幼馴染の顔に、芋に齧りついているターナーへ確認するような言葉が口を衝く。
「そういえば、アンも代官屋敷に居るんだよな? 体力の限界が来て倒れた、って話だったけど……大丈夫なんだよな?」
「……大丈夫」
「はんへー、ねへはへー」
「テトラ、食べながら喋るなよ。飲み込んでからにしろ。でもさ? さすがに五日も寝込んでるのはおかしくないか? あのアンがだぞ? 遺跡の中を走ってた時も一人だけ平気そうな顔してたよ。ほっときゃ一日中だって走れそうなほど体力ある奴なのに……五日も倒れるもんなのか?」
喋りながら元々あった違和感が疑問として形になったのか、俺は不安も露わにターナーへ訊いた。
しかしターナーはいつもの表情で頷く。
「……倒れる」
「そうかあ? 俺にはどうにも信じられないんだけどな……。だってそうだろ? 人一倍体力がある奴なのに……」
「……じゃあ、何が無くなればアンは倒れると思う?」
「何って…………まさか魔力のことを言ってんのか? ターナーには悪いけどさ、それは無いな」
「食べた、無いなった」
「おかわりも無いからな」
「……なんで?」
「いや、そんなに金持って来てないんだよ。弓借りて鳥でも狩れば良かったな。マッシが居たから――」
「……そうじゃない」
「そうだねー? 今食べたいもん」
「う〜ん……あと二つ、芋買うか? 半分こな」
「……そう、れでいい」
言いおいて同じように朝からやってる露店を覗く。
素早く買うのがコツだ。
じゃないとテトラが好奇心のままに他の露店にも顔を出すからな。
ターナーが一緒じゃなかったら、もう二回は見失ってるまである。
適当な露店で更に二つの芋を購入した。
今度は『焼き芋』だと。
村で食べる芋とは皮の色が違うけど……まあ大した違いはないよな。
芋は芋さ。
購入した芋を片手に元の場所へ戻ると、キョロキョロと通りを見渡すテトラと手を繋いだターナーの姿があった。
……どっか行きそうになったな?
「テトラ、追加買ってきたから落ち着け。ターナーもありがとな。ほれ」
「わーい」
「……別にいい」
「残り半分はお土産な? …………なんか疑ってるみたいだが、アンのだぞ?」
さすがの俺だって、お貴族様の手土産に露店の芋を、しかも半分だけ持ってこうとは思わないからな?
疑われてるのか、ジッと見るのを止めないターナーから目を逸らして芋に齧りつく。
「お、甘い! 甘芋だな、こりゃ」
「おいしー」
「……うん」
「それで、どうすんだ? リーゼンロッテ様に会うとかなんとか言ってたろ?」
「……うん。まずリジィに会う。アンの様子を見に来たって言えばいい。自然と遭える」
「そうなのか? ……普通にアンに会えるだけだろ?」
「……リジィは真面目だから。絶対にこっちの顔を見て謝罪してくる」
「え? 謝ってくるのか? なんでだ? リーゼンロッテ様は何も悪いことしてないぞ?」
「……そう。でも謝ってくる。そういう性格。押せばイケる。貰える物は貰う」
「なんか弱みにつけ込んでるみたいで気分良くないな……。行き過ぎてるって判断したら止めるからな」
「……良い子のフリはやめて」
「兄ちゃんは直ぐに格好つける」
「お前ら芋返せ」
暫く歩いて代官屋敷の前まで来た。
……なんか想像以上に物々しいな?
複数の騎士団が逗留している上に、姫様やリーゼンロッテ様まで居るから……警備がいつもより厚くなるのはしょうがないと思うんだけど。
騎乗した騎士が見回りまでしてるのは予想外だ。
しかも完全防備じゃないか?
姫様が狙われたのは分かってるけどさ、街中でもこれだけの警戒をしなきゃいけないのか……。
ちょっと窮屈で可哀想だな。
普段なら入口前の詰め所ぐらいまでは近付けそうなものなんだが……下手に近付いたら拘束されそうだったからか、ターナーは歩哨に話し掛けていた。
ターナーがいきなり姫様には会えないって言ってたのも分かるな。
少し話して騎士が呼ばれる。
どうやら本当に代官屋敷の中を案内してくれるみたいだ。
……これで本当にリーゼンロッテ様に会えるのか?
俺は怪しさ半分期待半分でターナーの後について行った。
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