第425話
村に居ると殆ど出遭うことのないテンプレとの遭遇に、感動よりも嫌気が先立った。
これ自害があるとなると半端なくめんどくさいんだなぁ……。
こういう対応を意気揚々とやれるのが若さなんだって今更になって気付いたよ……
お客様の中に主人公はいませんか? 異世界に来たばかりの方がいいです――そんな視線で周りをグルリ。
隣りの店のおっちゃんには早々に知らんぷりをされたというのだから世知辛い。
物珍しげに見てくる通行人と、興味深そうに見物に回る他の露天商しかいない。
ここの他にだって若い女の子が売り子をしている店はあるというのに……。
そこはそれ。
恐らくは商売に於けるバックボーンでもあるのだろう。
ガンテツさんの気性から考えると、うちの露店じゃそういうのはやってなさそうなんだよなぁ。
だからこそ狙いを定められたんだろうけど。
もしくは元から目を付けられてた可能性も……無くはない。
パーズの見た目は……それこそ日焼けしているが、思わず目で追っちゃうぐらいには可憐さと綺麗さを合わせ持っている。
普段から天使を脳裏に焼き付けている俺じゃなきゃ見逃せないぐらいには美少女だ。
強面のボディガードがいない隙を狙ったのだとしたら頷けそうである。
もしかして二人で行動してたのって……そういう心配も含まれてたんだろうか?
なんか教育がどうこう言ってたしなぁ……なんならこの娘、年頃の男の子の前なのに躊躇なく服を脱いだりもするのだから。
ああ、祖父の心配にも頷ける。
だとしたら従業員の取る態度としてはこうだろう。
「焼かれるのをご希望ですか?」
俺はスマイルで問い掛けた。
すると如何にも邪魔物を見る目でこちらを向くお客様。
「ああ? テメーに言って――あっつ?! 熱ぃ?! なんだ?!」
いや、火がご希望だって言うから……。
こちらは秘した能力まで露見させて奉仕しているというのに、何故か戸惑うお客様に俺も戸惑う。
指先に灯した
鼻の頭だったかなぁ……?
「でも……焼いて欲しいって言うから……」
オドオド。
「誰が俺の顎髭を焼けって言ったよ?! ……テメッ、ナメてんなよ!」
親切だったのに……。
顎の火を揉み消しながら、ギュッとお客様が拳を握られたので、こちらもマニュアル通りの対応を取ることにした。
大体はラノベが教えてくれるんだ、俺は知ってるんだ。
滑らかに身体能力強化を発動して立ち上がる。
その所作が余りにも速かったせいか、ギョッとして動きを止めてしまった元お客様に前蹴りをプレゼントした。
サービスだ。
仲間を伴って通りを転がるクレーマー共。
反対側にある露天の前まで滑っていった。
ちなみに反対側にある露天はゴミの回収を有料でやっていた。
魚を刺していたと思われる串や、貝の殻、骨、あるい破れた網まで回収している。
座っていた爺さんが『引き取るか?』という視線をくれたので『金が無い』と首を振っておいた。
残念だ。
巻き込まれなかったお仲間さんが怒気も露わに顔を赤くして言う。
「なにしやがんだ!」
何って?
「当店自慢のサービスですが……」
火焼けっていう。
「ふざけんなよ?!」
どうやらお気に召さなかったみたい。
異世界って難しいね?
商品台を蹴り飛ばそうとする無頼漢の足を、こちらの足の裏で受け止めた。
そのまま流れるように飛び出して相手の顎にハイキックを入れる。
あと二人ぐらいか?
頭を揺らされて倒れるお仲間さんを余所目に周りを確認した。
しかし巻き込まれて転がされた奴らは前蹴りを受けた奴と違って立ち上がってきたので、実質は四人といったところだろう。
身体強化だけだと反動がなぁ……。
でも重ね掛けすると出力過多なんだよなぁ。
素の身体能力が村人なので仕方ない……。
――――相手に我慢して貰おう。
「この野郎!」
殴り掛かってきた相手の腕の太さに、身体能力強化の魔法を肉体強化に切り替えて受けた。
額で受けた相手の拳から嫌な音が響く。
でも――
「一発は一発な?」
「ごっ……?!」
痛みに怯んだ相手の腹に正拳を突き込んだ。
崩れ落ちる相手を無視して――死角から襲い掛かろうとしていた四人目に横蹴りを叩き込む。
ギャラリーに突っ込んでいく四人目に、高みの見物を決めていた奴らは慌てて距離を空けた。
巻き込まれないように最初から距離を取っていたのは流石だと思う。
これが前世なら危険もなんのその、スマホ片手に野次馬している奴らが巻き込まれて転倒していたまであった。
こっちの世界じゃ揉め事になると急に余所余所しい感じ出るから凄いよね。
見物はするけど親身にはならない的な?
早々にいなくなっている隣りの店の奴には脱帽ですよ。
……俺より速いんじゃない?
半数以上が
どうやら筋肉は伊達ではなかったようで、一人に付き二人を抱え上げるというのだから大したものである。
…………というか普通に凄いよな。
いや……俺だって農作業に狩り、最近は従軍まで経験したというのだから……そこそこ付いてる筈……。
筋肉の盛り上がりが見れないのはローブだからさ……うん。
……きっと…………たぶん。
メンタル的には惜敗を喫した俺が売り場に戻ると、瞠目しているオーナーと出くわした。
「お、おおー? なー? ……ええー?! なー!」
うん。
どっかのジト目やお姫様と違って、そりゃ驚くよねぇ……。
魚を刺した串を握ったまま立ち尽くしている雇用主に、俺は取り敢えずの提案をした。
「ひとまず魚を焼きましょうか……お腹空いたし」
塩、儲かったね。
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