第302話


 あ、お腹痛くなってきた……これは病の予感。


 ……………………い、や、いやいや! 待て待て!


 落ち着け…………そう、冷静になることが肝要だ。


 …………………………………………ぐ、偶然なんじゃないかな?


 だってシャッターだもの……それこそありふれた形だよ……。どこの異世界物だろうと牢屋に鉄格子が使われるように……! 発想の過程で同じ道筋を辿ったというだけ! そう! それだけのことッ! 思ってなくないよ?! 本当にそうだと思うもの?!!


 偶々の偶然さ……そう! 奇跡的な思考の一致が世界を越えて起こった! ただ! それだけのことッ!


「どしたぁ、レン? 急にキョロキョロして……なんか探しもんか?」


「え? いや別にぃ? ただ物珍しかっただけですけど何かあ?!」


「……いやお前、物珍しいも何も……今のところ真っ暗で広い空間ってだけだぞ? ……そりゃ圧倒はされたけどよぉ。精々初めて見る形の扉があるぐらいで……」


「でもさ、マッシ。俺達もレンもここに来るのは初めてだぞ? 何を探すって言うんだよ」


「いや……レンの動きが腰に付けてた弁当なくした時の動きだったからよ」


「あー、ターナーがくすねたときのか」


 今ちょっと聞き捨てならない事が聞こえてきたけど、忙しいから詳しくは後にしよう。


 そうだ……ただの広い空間。


 しかし…………今は何処と無く『倉庫』に見えると言えば見えるような……。


 き、気の所為ですよ?! 犯罪者集団が盗品置き場に使っていたという情報があったから! 先入観ってやつさ! きっとそう!


 大体ここが倉庫で、あれが搬入口なら、人用の入り口が…………。


 わざわざ視力を強化して、僅かな明るさを頼りに入念に倉庫をチェックしていると、ハンマーでヘコまされている入り口の隣りに、より厳重そうな扉(のようなもの)を発見した。


 ……………………まだ古代人のレイアウトの可能性が残ってるから……諦めんな。


 まだ……まだ……!


「あれ? 横にも小さい扉があるな?」


 テッドォオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおお?!!


「行ってみようぜ!」


「そうだな。あっちは重要視されてないみたいだし」


「いや良くない。そういうの良くない。良くないと思うなあ?! 僕はあ?!」


「大丈夫だって! 心配なら、念のため俺が近くの隊長さんに聞いてきてやるよ! すいませーん!」


「マッシ。ちょっとテッド寝かしつけてくるな?」


 大丈夫、慣れてるから。


 指をバキバキ鳴らしながらテッドの後を追おうとする俺の肩を、マッシが掴んで引き止めた。


「お、落ち着けレン。今から遺跡探索するのに荷物増やしてどうすんだ? 他にも暇な兵が見学してるし、変なことじゃねえだろ?」


 だって! だってあいつが俺に現実を突き付けようとするから! もう殺る(?)しか、殺るしかないじゃないか?!


「おーい! いいってよー!」


 ほらあ?! 本人もいいって言ってるじゃん!


 恐らくは突入部隊の隊長格っぽい正規兵とテッドが、大きなシャッターの横に鎮座する扉の方へと移動する。


 そっちに行くのはズルいだろ?! よせ! やめろ! 行きたくない?!


「……さ、村に帰るか?」


「何言ってんだお前? ここで怖じ気づくとか無えだろ。行くぞ」


 そのまま首根っこを掴まれてズルズルとテッド達の方へと引き摺られる。


 や、やめろお?! これは人権を無視した行いだぞ?! 魔法を使った抵抗も辞さないがいいのか?! 俺の魔法凄いよ?! 使わせると凄いよ?!


 しかし抵抗もするもしないもなく……ありありと照らされていた扉が俺の視界に入ってきた。


「まあ、気になるよなぁ」


「はい! どうしてこっちの扉を開けないんですか?」


 隊長っぽい人とテッドの問答が聞こえてくる。


 見た感じからして厚そうな金属の扉だ。


 どうしても何もないだろう。


 隊長っぽい人……小隊長かな? その小隊長さんが扉の頑丈さを表すかのようにコンコンとノックする。


「見ての通り、分厚いからだ。向こうも見たまんま頑丈だけどな。まだ変形するだけマシだろう? こっちは火の魔晶石でも焦げ跡一つ付かなかったそうだからな。魔法もダメ、武器もダメ。どうだ? お手上げだろ?」


「普通に開けたり出来ないんですか?」


 いや普通に開けれるようなら野蛮なノックでお宅訪問しないだろうよ。


 しかしテッドの正直過ぎる問いに、小隊長さんは難しげな表情をする。


 それは『出来ない』と断言出来ない何かがあるような……。


 答えは直ぐに示された。


 百聞は一見にしかずと、小隊長さんが頑丈そうな金属製の扉の脇にある四角い枠を触る。


 すると枠の中が発光して文字が浮かび上がってきた。


 ……まるでタッチパネルで操作するディスプレイみたいだね……キグーキグー。


「実は開けられる可能性があるにはあるんだが……ここに書いてある文字が?」


「あ、ホントだ。下に書いてある……文字? 絵? が読めませんね。でも上のは読める……合い言葉?」


「そう。なんらかの合い言葉を書けば良いっぽいんだが……それが分からん。分かるのは上に書いてある『合い言葉を示せ』だけだ。下手に間違えて罠でも発動したら事だからな。一応は連絡を入れてるから、お偉いさんの判断待ちなんだが……その前にあっちの方が開くんじゃないか?」


 懐かしい……とは言えないぐらいの近さで読んだことがある文字が、暗闇に燦然と輝いていた。


 上には、こちらの世界の文字で……。


合い言葉を示せパスワードを入力


 と、こう。


 そして下には……――



『疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵し掠めること火の如く、動かざること山の如し』



 という……ヒントのような一文がで添えられていた。


 …………たぶん武田さん家か孫子さん家の家の子だな。


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