第38話
「大丈夫だって! あれでなかなか仲間のこと考えてる人達だったろ? ドゥブ爺を見捨てるようなことは無いって!」
うん、問題はドゥブル爺さんを仲間と思ってなさそうなことなんだよね。
台詞はともかく見た目がね?
無駄に自信を漲らせるテッドに不安そうな表情を返す。
鶏小屋へと戻ってきた。
掛ける言葉も無いような嫌な沈黙に文字通り蓋をして盗み聞きを終えた。
普段見ることのない大人達の秘事を盗み聞いたことで、高まる心拍数のまま足早に進む幼馴染達の後を追って帰ってきたのだが……。
悪さと相まったのか心配を置き去りにして興奮しているように見えるテッド。
吊り橋効果かな?
それ勘違いだから落ち着け。
あの冒険者共の話が本当なら村は狼の魔物に囲まれてるんだぞ?
しかも物騒なボス付き。
気付いているんだろうか? そもそも第一声がそれな時点で、頭の何処かで心配しているのは間違いないわけで……。
「親父があんなに怒るのは珍しいな」
珍しいってことは怒られたことあんの?
ああ、そういえば最近やらかしてますね。
唯一顔を歪めているのはチャノスだ。
それどういう感情?
憎々しげと言うか、厳めしいと言うか。
まあマイナス方面なのは間違いなさそうだが……。
最近気付いたんだけど、お前らも色々と考えてるんだなぁ。
すまん、てっきり頭空っぽにして遊んでるんだとばかり思ってたよ。
俺の子供の頃ってのはどうだったっけなぁ…………今がまさにそれなんだが。
「大丈夫大丈夫! 安心しろよチャノス! どっちにしろ応援は来ると思うんだ。親父って心配性だからさ。それにいざとなったら村の男達で戦えば時間稼ぎぐらい出来るだろ? そうなったら俺も出るし! イケるイケる! 戻ってカードやろうぜ!」
嘘みたいだろ? これで中身が詰まってるって言うんだぜ……。
まあ言い聞かせてるだけかもしれないが。
自身の呟きを不安がっているように取られたとみたチャノスが、不満も露わに反論の声を上げる。
「そもそも心配してねぇよ! ……ドゥブル爺さんが出るんなら問題無いだろう?」
「まあ、それもそうだな。な? レン!」
「……そうだね」
そうなんだよなぁ。
この世界においての魔法の有無はデカい。
言葉一つで爆弾を生み出せるようなものなのだ。
対人戦となるとまた色々と問題があるんだろうけど。
人間は知恵持つ生き物だからね。
しかしこと魔物戦に限定するのなら魔法使いの強さというのは無類のものだと思う。
詠唱の時間というのは言うほど問題にならない。
無詠唱で発動するのにその利点を捨てて決め台詞を吐いちゃうような奴もいるぐらいだし。
圧倒的な暴力。
それがこの世界での魔法だ。
……しかし分かっていることと実感を得ることは違う。
テッド達の脱走が無かったら、恐らくは日の目を見ることのなかった俺の魔法。
前の世界との知識も合わせて、充分に理解しているつもりだったけど……やはりどこか憧れのような感覚で見ていたことは否定できない。
ドゥブル爺さんにしてもそうだ。
尊敬と畏怖を集める存在なのは知っていた。
炭焼きの見学という名の魔法の見学を、子供なら誰しも体験してきているだろう。
その時に、人を丸ごと呑み込めるような火の玉が生まれる瞬間を見ている筈。
ちなみに炭焼きとは関係なかった。
たぶんサービスのつもりだったのだろう。
子供好きだからなぁ……それが怖がられる原因なのに。
しかし……そう、そこで正しく魔法の脅威を教えていたのだ。
今となってはそう思う。
魔法を使うまでのハードルの高さ、魔法使いと呼ばれるまでの努力、実際に生み出される魔法は……なるほど、ドゥブル爺さんは尊敬される存在と言える。
しかし畏怖についてはどうだ?
――――俺は、ドゥブル爺さんを怖がったことがあっただろうか?
魔法使いが魔法を使う、これを当たり前に受け止め過ぎていた気がする。
魔法なんて無い世界なのに、魔法という言葉が当たり前過ぎた前の世界の影響か。
驚いたし、ドキドキしたし、危ないものだと理解していた。
……していた、つもりだった。
でも認識に差があったと思う。
魔法というのは、たぶん俺が考えている以上にデカい。
だからこそ――――無くなった時の差も……デカい。
そこが村長達が心配の種となっている。
魔法を使えなくなった時のドゥブル爺さんというのは…………そして魔法を使い切る状況というのは…………。
実際は大丈夫だと知っている。
竜巻を生み出すような魔物なんていやしない。
冒険者達の判断は正しい。
ドゥブル爺さんなら、少し大きいぐらいの狼なんて物の数にも入らないだろう。
依頼は完遂される、問題なんて無い。
パーティーで対抗するのだから、尚のこと盤石。
……問題は無い……無い、筈なんだけどなぁ……。
しかしどれだけ安心材料を重ねても、不安は中々消えなかった。
気持ちとは裏腹に事を安く見積もれるのは、俺がアホみたいに強力な攻撃手段を有しているからだろうか?
村の状況、魔物のボス的存在、軽々しく考えられるようなことじゃないと思うんだけど……。
『いざとなったら……』みたいな考えが根底にあるような気がしてならない。
いつからそんな考えが生まれたんだろう?
無数の魔物をミキサーに掛けた時からか?
それとももっとずっと昔からそうだったのか……。
…………なんか嫌だな、これ。
危うい感じがして。
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