第28話


 やだ、討伐されちゃう。


 俺は魔物なんかじゃない! 魔物なんかじゃないんだ?! ……と、悲痛に叫べば許してくれるだろうか。


 バカ言え。


 奴らが魔物おれを見つけたということは無いだろう。


 魔物、子供のお守りしてるし。


 よしんば何か見つけていたとしても、狼の魔物の生き残りだと思われる。


 …………いるんだろうか? 生き残り。


 集団で狩りをする習性があったように見えたんだけど? ……あの時に皆殺しにしたと思ったことがそもそもの勘違いだったか?


 まあ万が一にも生き残りがいると仮定して。


 だとしても、その生き残りが更地の原因だと考えた理由はなんだろう?


 森に言われた通りの魔物がいた、他に脅威になりそうなものは無い、あれが更地の原因だ――――と、安直にも考えたんだろうか?


 …………ありえそうで困る。


 直感物理的な顔面だったもんなぁ。


 それがそうだったとしても問題はあるが。


 しかしもっと単純に――――奴らが嘘をついている、と考えるのはどうか?


 どうかっていうか、条件反射的に『嘘だ!』って思っちゃったけど。


 期せずして嘘になったのか、ただ単純に嘘をついているのかは分からない。


 なんにせよ真実ほんとうのことではない。


 原因が俺の話なだけに……ちょっと責任を感じてしまうんだが?


 少し調べてみようか、なんて思ってしまうんだが?


 ターニャさんのジト目がキツいし。


 いや、別にいつも通りの視線だから責めている訳じゃないんだろうけど。


 なんか面倒なことになってきたなぁ……。


 負い目があるのだから仕方ないと言えばそうなのだが……。


 しかしこれ以降、幼馴染達が冒険者を見に行こうと言わなくなった。


 ……まあ、当たり前か。


 怖い思いをして、気分も悪くなったうえに、ツムノさんからはなるべく売店に来ないように言われたもんな。


 行こうと思わなければ売店周りには近付かない年齢なのだ。


 普通はお小遣いなんて貰わないので。


 溜まり場もチャノスの家を挟んだ反対側だし。


 それぞれの家からしても、テッドとチャノス以外が冒険者に関係することは無さそうである。


 そのテッドにしても村長さんの言い付けがあるし、チャノスは元々そこまで興味が無さそうだったので、今や接点は皆無。


 近付こうにも近付けない。


 しかも自由になる時間というのは、基本的に幼馴染達が付いて来てしまうわけで……。


 ……上手く行かないんだけど?


 身動きが取れずに三日程が経過してしまった。


 もう魔物を討伐したとうそぶいて帰っていてもおかしくない日数――――だというのに冒険者共は未だに村に滞在している。


 これは明らかにおかしい。


 狼の魔物を見つけていたとして……そんなに時間が掛かるものなんだろうか?


 犠牲を厭わなければ、村の男達でも殺れそうではある、なんて思っていたんだけど……。


 余程のこと数がいたとかだろうか?


 いや、そこまでの数が棲み着いている訳がない。


 繁殖したにしても早過ぎるし、それだけ居たのなら森でもっと見掛けていた筈だ。


 現に冒険者が討伐した獲物を持ち込んだとは聞こえてこない。


 フラフラと森へと出掛けて行って何をやっているのか……。


 滞在日数はまだ一週間程だが……結論を知っている身としては、いやに遅く感じる。


 事実、他の大人達は平気そうな顔をしているので、もしかしたら魔物の討伐というのに掛かる日数はこれが普通なのかもしれない。


 でも、お話の中の討伐って即日終了が多かったんだけど? こんなに慎重にやるもんなの? 調査を含めても長くない?


 諸々の疑問を父や母にぶつけてみたところ、返ってきた答えがこれだ。


「こんなものよ、お話じゃないんだから」


「早い時は早いらしいがな。そうだな、こんなものだ。……少し長いか?」


「そうねぇ……でも言うほどじゃないわよ。村の周りを全部調べるんだから」


「だねぇ。見逃したら、それこそ依頼は失敗なわけだし」


 どうやら平均的ではあるらしい。


 しかしそれもあいつらの『嘘』を知らなければという注釈が付く。


 いないって、魔物なんて!


 いやいるのか?


 本当に魔物がいて、事前情報から慎重になっているのか、もしくは本当に手こずってるだけなのか? どっちなんだ?


 ……ああもう分からん!


 一人で悩んでいると直ぐに推論が袋小路に迷い込んでしまうので、真実を知っているもう一人に相談して吐き出してみた。


 ターナーもといターニャに。


 答えが得られるとは思っていない。


 まあ相談というか……ぶっちゃけ只の愚痴だ。


 ケニアがトイレに、テトラが熟睡している時に、それは漏れた。


 『あいつら嘘つきだよねー』『ねー?』という傷の舐め合いのような会話を予想していたところ――――予想もしない答えが返ってきた。


「わかった、デートしよう」


 前々から思ってたんだけど君の考えてることって全く分からないんだよね?


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