第47話 官渡の戦い Ⅲ

 (我々は5万、相手は20万。これで敵うのかな・・・?)


 官渡の一角に陣を構える俺、風魯は不安で仕方ない。


 (いっそのこと、袁紹に走るか・・・?)


 そんなことを考えもしたが、俺は袁紹が好きではないし

彼がどう思っているかも分からないのだ。


 (曹操軍を抜けて行ったはいいものの受け入れてもらえなかったら、

それこそ進退窮まるぞ・・・)


 そう思うと、やはり曹操軍にいるしかない。


 

 「風魯大将軍、この前の礼を言いに来ました」


 ある日、俺の陣営に姿を現したのは司馬懿という男。

実はこの前、俺が曹操に推挙したことがありそのお礼に来たのだという。


 「ああ、して丞相様の反応はどうだった?」


 俺の問いに彼は笑顔で答える。


 「はい!丞相様の配下として働かせていただくことになりました!」


 この司馬懿という男は下っ端であったころ、俺が劉備を逃がしたのを目撃し

曹操に密告した者だ。

 だから、本来その仲は険悪なはず。


 だが、俺はそれを承知の上で彼を推挙したのだ。

彼は臆病だが知識という武器を持っているのもある。

でも俺が推挙した一番の理由は曹操軍の中で味方を作っておきたかった、

というものだった。


 司馬懿は敢えて自分を推挙してくれた俺に感謝してくれるのではないか、

そう目論んでやった訳だが、実にその通りになったのである。


 彼は重ね重ね感謝の意を表して帰っていった。


 これでまた曹操に怒られてもなだめてくれる人物ができた、

と思う俺だが、考えてみれば俺の本心は曹操の陣営にいるつもりなのだ。


 (まぁ、曹操のところにいれば大丈夫だろう)


 曹操は三国志の英雄だから、そう簡単に敗れるわけないよね、きっと。



 「え、劉備殿から手紙?」


 配下の報告に俺は少し驚く。


 劉備といえば袁紹を頼ったところ追い返されたという歴史があったが、

袁紹が曹操討伐を決意して以降は結局袁紹のもとにいる。


 どうやら劉備は袁紹に相当な厚遇を受けたそうな。

まったく、あの袁紹もコロッと手の平を返す奴だ。


 そして、その劉備から送られてきた手紙を読むと、

かなり丁寧に書かれているが言いたいことは一つのようで、


 ”風魯大将軍、袁紹側に加わらないか”


 というものである。


 (確かに劉備殿も恩人ともいうべき俺と戦いたくはないだろうし、

それは俺も同じだ。でも、この戦いってどっちが勝つのだ?)


 俺としては勝つ方につきたかったが、

なにぶん俺は歴史を知らない。

 曹操はすごい有名だから勝つのだろうと思って付き従ってきたが、

正直言って確証は全くないのが現状。


 俺はそういった心情に加えて圧倒的な兵力差でも心が揺らぐ。


 (はて、曹操についたものか、劉備と共に袁紹についたものか―)


 しばらく悩んでいたが、ある日遂に意を決した。

袁紹に寝返ろうと―

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