第46話 官渡の戦い Ⅱ

 「何っ、張繍が曹操に降っただと!?話が違うではないかっ」


 斥候からの報告に袁紹は困惑する。


 張繍と曹操を挟撃することでの勝利を確信して黄河のほとりまで

大軍を進めてきたが、その張繍が曹操に降ったという報告を聞き

急に怖気づく。


 「田豊、田豊、これはどう考える?」


 袁紹は軍勢の進退を軍師の田豊に諮る。


 「問題ありません。我らは単独でも勝てます。

袁紹様が我ら一同を信頼してくださるのであれば、

進軍を続けるべきです」


 経験豊富な田豊は進撃を続ければ勝利は間違いないと言う。

しかし、同じく軍師の郭図かくとは反対の意見だった。


 「お待ちください、張繍が曹操に従った以上は曹操は全軍を引き連れてくるはず。

曹操軍もまた精兵ですから慎重さが求められます」


 郭図は少し曹操軍の様子を見てからの方がいいと述べる。

軍師の意見の食い違いに袁紹はますます困惑したが、

そこに三人目の軍師、沮授そじゅが割って入る。


 「この話は曹操軍の陣容を把握してからでいいでしょう。

あの曹操も依然として荊州の劉表とは関係が悪いです」


 「よって、大軍を動かしてくるとは限りません」


 沮授の意見に皆が納得し、曹操軍が近くに来るのを待った。

そして、遂に・・・


 「ご注進!曹操軍、兵力はおよそ5万!兵数思うより少なく、

また士気も上がっていない様子、御免っ」


 斥候からの報告を受けて田豊は袁紹に進言する。


 「あの様子では我らとまともに戦えないでしょう。

打ち破るなら今しかありません!」


 しかし、郭図がまたしても反論した。


 「お待ちください、いくら劉表がいるとはいえども5万は少なすぎます!

これは伏兵を忍ばせて襲来を待ち伏せしているに違いありません!」


 郭図の反論に田豊は嫌な顔をする。

これまでも田豊の進言に間髪入れず反論したことが多々あったので、

恐らくまたお前か、という表情なのだろう。


 「うーむ、どうしたものか・・・?」


 袁紹は深い悩みに入ってしまう。

だが、その間にも両者の論戦は続いた。


 「郭図殿、悪いがおぬしの意見は間違っている。

曹操の真の狙いはこうして袁氏内部で争わせて軍を停滞させ、

兵糧が底を尽きるのを待っているのではないか」


 田豊は今まさに曹操の狙いを看破した。

実際に曹操が少ない兵数で来た理由はそこにある。


 しかし、郭図も引き下がらないので、沮授が仲介に入ることに。


 「ここは曹操軍から内通者を作り、その者から伏兵の有無を聞くことで

全てが解決します」


 沮授の意見に両者も合点がいき、論戦は終わった。

しかし、内通者を作り出すのは難しい。

 なぜなら曹操麾下は忠誠心の高い部下で固められているからだ。


 「一人、間違いなく動く人物がいます」


 沮授は言う。

曹操軍の中にも動かせる人物がいると。


 「ほう、その名前を聞かせてもらおうじゃないか」


 田豊が沮授に尋ねる。

その人物とは誰なのか?



 「ズバリ、風魯大将軍です」


 そう、俺だったのだ―



 ※人物紹介


 ・郭図:袁紹の軍師の一人、功績もあるが戦犯の方が目立つ。

 ・沮授:袁紹の軍師の一人、最期まで袁紹に忠誠を尽くした。

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