第28話 俺の外交術 Ⅲ

 「ああ―生まれたところは違えど死ぬときは同じ・・・

そう誓って生きてきたが、まさかここで死ぬことになろうとは・・・」


 縄に巻かれ、一人そう嘆きながら俺の前に連れてこられたのは、

曹操の敵将劉備玄徳である。

 もちろん、その周りに関羽や張飛はいない。

どうやら散り散りになったようだ。


 (もはやあの劉備は俎板の鯉である。ここで曹操の前に突き出して

一刀両断すれば俺の地位は間違いない。だが、劉備がここで

死んでいいはずがない・・・!)


 俺は悩む。

部下が捕らえてしまったこの男の処遇を・・・


 「風魯将軍」


 困り顔の俺に劉備が話しかける。


 「私はここで死ぬことに悔いしかありませんが、

これもまた天命です。どうか私の首を上げてください」


 「なにせ敗軍の将ですから」


 そう、劉備は曹操の軍略に屈してしまったのだ。

詳しく話すと、劉備は曹操の挑発に乗った張飛らを止められず、

追いかけるように城から出できたところを俺たちに囲まれたということである。


 (よりによってなんで劉備を配下の兵士が捕まえてしまうかなぁ)


 俺はしばらくの間苦慮していたが、

やはり将来を知る俺に劉備の首を斬らせることはできなかった。


 「そこの者、巻いてある縄を解け」


 俺の命令に麾下の兵士は驚きを隠せなかったが、

何かあるのだろうと思い縄を解く。


 「風魯将軍・・・、この私をいったいどうするつもりで・・・」


 「とにかく逃げるのだ。そして関羽や張飛と共に落ちるといい」


 「・・・・・・!」


 劉備はかなり驚いていたが、少しして状況を飲み込むと、


 「風魯将軍、この御恩は一生忘れません」


 と言葉を残して去っていく。

その後、彼は義兄弟と再会しともに徐州の城に戻ったという。


 

 「曹操様、大変です!風魯将軍が捕まえた劉備玄徳の逃しました!」


 当然、こんなビッグニュースを目撃した兵士が黙認するわけがない。

俺の配下の一人が陣営を抜け出して曹操のいる本営へと密告した。


 「なにぃ!?それはまことか!風魯の奴め、目にかけてやった

恩を仇で返すとは・・・!」


 曹操は激怒して俺を呼び出しに使者を送ったが、

そこにはもう俺の姿はない。


 (とにかくこちらも逃げなければ・・・!)


 俺は密告されるのを前提として早々と逃亡。

徐州からひたすら北西に、長安を目指して逃げた。


 その長安は献帝を擁する李傕と郭汜が治めている地だ。

前述の通り二人とは旧知の仲なので、受け入れてもらえるような気がしたのである。


 俺は曹操のもとで得たすべての地位を捨てて馬を走らせ、

長安へと入った。

 

 「おお、これはこれは風魯将軍。久々ですなぁ」


 思った通り二人は俺を手厚く迎えてくれたが、

その後も俺はゆっくりと腰を下ろしてなどいられないのである。

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