次へと繫げるために

ゆりえる

第1話 多分、最後のデート

『明日、いつもの場所で待っている』


 恋人の片桐太志とは、最近、なぜか疎遠になっていた。

 小川千鶴子には、全く思い当たる節が無かったのだが、風の噂で、太志が別の女性と頻繁に会っているらしいと耳にするようになっていた。


 太志が自分以外の女性といるような状況を目の当たりにした事が無かった千鶴子は、その噂に関して半信半疑だったが、最近はスマホのお知らせ音が鳴る度に、ビクビクさせられた。

 そのように警戒心が働くのは、千鶴子が、その噂を否定出来ずにいるせいなのだと自覚していた。

 いつか、太志から、そんな連絡が入るのだという予感を漠然と抱いていた。


 太志から指示された『いつもの場所』というのは、2人がデートの時に待ち合わせた無名の建築家の銅像の周りに並んでいるベンチだった。


 30ほどの色とりどりのベンチが銅像を囲うように配置されているが、週末ともなると、待ち合わせの若者達でベンチは埋まり、座れなかった人々はその周りで立ってたむろしていた。


 その人気待ち合わせスポットのベンチで千鶴子と太志の交際は始まり、同じ場所で今度は締め括りを迎えようとしているのかも知れなかった。


「容子、どうしよう?太志から、ついに連絡が有ったの!私、これから、フラれに行く事になるかも知れない!」


 待ち合わせの前に、親友の井村容子に電話をした。


「落ち着いて、千鶴子。大丈夫よ!千鶴子の魅力が分からない男なんかに執着しない方がいいわ!そんな男は、そのよく分からない女にくれてやんなよ!戻ったら、話聞いてあげるから、気持ちを大きく構えて行って来て!」


 容子からしても、千鶴子の予想通りになりそうな気配を感じさせられ、親友とはいえ、今さら下手に見え透いた言葉はかけずにいた。


「うん、そうだよね!このまま現状維持していても埒開かないから、嫌だけど、前進してくる!」


 容子に励まされ、千鶴子は意を決し、太志との待ち合わせ場所へと向かった。

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