31 二つの帰り道ですが?
ゲームセンター騒動後、ショッピングモールを二人で適当にぶらつき、気が付けば時刻は午後五時。
電車がこみ始める前に早めに切り上げて、荷物を回収し青鵐に帰る駅に向かう。
「ごめんね弟君」
「篠崎さんもういいですよ」
今日の間に何度も謝らせてしまっている。篠崎さんが謝ることはないのに。友達としてだろうか。
「だって弟君あれからずっと考えてる顔してて、口開いてくれないんだもん」
「……その件に関してはすみません」
わざとらしく膨れる篠崎さんに対し、今の心境を素直に答えた。
かなり気を使わせてしまっている様子だ。何とか返さないと。
話を変えるために話題を考えるが、乃虎の姿に頭の中の考えを塗りつぶされ、言葉が出てこない。
そんな再び考え込む佐一に、篠崎さんは笑いながら気さくに。
「そんなに考えこまなくていいって。今日の一日だって計画性のない自由な行動しかしてないけど少しは楽しめただろ? 話も一瞬頭に浮かんだくだらないことを話してくれるだけで結構トークが弾むもんだ」
そんな物なのかな……だったら。
「では乃虎さんの事を篠崎さんはどんな風に見ていますか」
今の考えを素直に篠崎さんにぶつけてみた。
「うへぇ直球で来たな。う~んそうだな。ちっこくて、小動物みたいなやつ? かな」
考える間もなく篠崎は即決に答えた。
「いや外見ではなく中身の印象を……」
だが佐一の知りたいのはそう言うことではないのだが。
「リス……いやラーテルかなぁ」
「……もういいです」
潔く諦めた。
篠崎さんは自分みたいに深く考えていないことが断言できる。
それだけ彼女を信用しているのか? それともただ興味が無い? だけどそれだと何でグループになるまでの仲になっているんだ。
ああ”!頭の中がこんがらがる。
「分からない」
「ふっふっ。迷え迷え、だがその先に答えは無いがな‼」
確かに篠崎さんの言う通りいくら考えても答えにたどり着くことはなかった。
「ところで弟君はこれからどうするの」
「また急に何ですか」
「いやぁ、お昼に聞いた弟君の考えが変わってないといいなぁって」
自分が大利を鈴さんから引き放すかどうかということだろうか。そんな事決まってる。
「変わってません。むしろさっきの篠崎さんの発言で決意が断固たるものになったぐらいです」
笑いながら篠崎さんに言い放った。
「ならいいね。これからガンガン遊びに誘うから覚悟しとけよ」
「むしろこっちから近づきます」
鈴さんの為にも。そして『乃虎』の為にも。
ゲームセンターで取ったぬいぐるみを強く抱きしめながら。篠崎と共にたわいもない会話で軽く盛り上がりながら帰るのであった。
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あたりは暗くなったころ、佐一と篠崎の二人とは違い重い空気の中、乃虎と鈴は駅で青鵐帰る電車を待っていた。
乃虎はゲームセンターでの出来事の後少し落ち込んでいて私が話しかけても『うん』や『そうなんだ』と一言返してくるだけで会話も続かない。
こういう時、どうしたらいいのか分からない。ただ心の中では『ある怒り』が沸々と湧き上がっていた。
今日の出会ったのも、朝の佐一の行動も全部計算していたんだ。乃虎ちゃんを怒らせ佐一自身についていくように仕向けたんだ。
何でこんなことをするのか、決まっている。私をこの不良グループから追い出すために行動を始めた。そうとしか考えられない。
今日佐一に会わなけれ乃虎ちゃんはこんなことにはならなかった。佐一がいなければもめ事もなかった。佐一がいなければ篠崎君と乃虎と私で楽しい休日が過ごせたのに。
私にかかわらないでなんて軽い言葉じゃあいつには伝わらない。今日の事でよくわかった。
「乃虎ちゃん。私に任せて」
小さな声で乃虎に言葉を掛けるが反応は無い。だが別にそれでいい。
「もっと強くなるから」
その言葉と共に自分の感情を抑え込んでいた。
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