怠惰の伯爵令嬢は、怠惰な生活を送りたい!

月 日向

第一部 ミスティアとヴィルフィール

第一章 ミスティアとヴィルフィールの逃避行

第1話 ミスティア、キレる

突然だが、伯爵令嬢ミスティア・ミッドナイトはだらだらするのが好きだ。

それは、ミスティアだけがそうおかしいのではない。

伯爵令嬢とは思えないが、ミスティアだけではないのだ。

例えば、父のミッドナイト伯爵は土に潜るのが好きだし、兄は仕事が趣味の人間だ。



では、そのミッドナイト伯爵の娘であるミスティアはどうか?



ミスティアは一日を寝て過ごすということが趣味の伯爵令嬢になった。

伯爵令嬢としてお茶会を開くわけでもなく、大抵の令嬢がしている刺繍をしたりするわけでもなく、寝て過ごすのが好きなのだ。


きっかけは、五歳の時のお茶会だ。


そのお茶会は、他の伯爵令嬢や友人が誘ってくれたお茶会で、主催者が楽にして参加をしてほしいという、貴族には珍しいお茶会だった。

そんなお茶会の当日に、ミスティアは寝坊をしてしまったのだ。

遅れたことを謝ると、友人や他の伯爵令嬢たちは心配していたし、主催者も大丈夫だと笑ってくれたのだけれど、ミスティアはこう思っていた。


「いつもより長く眠るって、罪悪感と背徳感で、最高じゃない?」

と……。


そして、そんな出来事から時がたち、ミスティアは二十歳になった。

今でも一日中眠りたいと思っていることは変わっていない。

社交界では嫁き遅れと言われる年齢だが、ミスティアは全く気にしていない上、持ち前の魔力を生かして王宮魔導師にまで上り詰めた。

王宮魔導師はあまり仕事がなくて楽だが、給料は破格にいいと噂だったので王宮魔導師になったのだが……。



人生はそんなにうまくできていなかった。



今のミスティアは、夢であるだらだら生活を謳歌できていなかった。

むしろ、逆である。

毎日毎日書類仕事と戦っており、残業三昧で家にすら帰れていない。

給料はいいが、それも使えておらず貯金になるばかり。

どれだけ仕事をしても、どれだけ終わらせても、新しい仕事が次々と降って湧いてくる。

そんな生活に、ミスティアはうんざりどころか正気を失った。


そしてついに、


「こうなったら、こんな国から出ていってやる!」


ミスティアの心は限界を迎えたのだった。

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