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 今世でのワシの名前はレタア・クラスティル、だったか。家の調度品やら建物の大きさやらからして貴族の家のようにも見えるが、はて、ワシは知らん苗字じゃな。と、ここ三年程ずっと考えていた。




 さて、そんなワシはもちろん三歳になった。なぬ? 時が経つのが早すぎるとな?


 じゃが動けもしない時の事をつらつらと述べていてもおもろうないじゃろう。


 まあ、ただ一つこの間のことで述べるとしたなら、動けない間も魔法の練習を一人でしていた、ということかの。逆に言えばそれしかしておらん。


 この世界で魔力というのは十歳程までにどれくらい使ったかで決まるのじゃ。小さい頃から魔力が底を付かない程度に使っていれば、幾らでも高めることが出来る。


 ワシは前世の記憶が戻ってからずっとそうしていたからの、前世の時よりも魔力は増えるだろうことが分かっているのじゃ!


 前世のワシは確か四つくらいから魔法を使い始めたから千年程で死んでしもうたからの。実に今世が楽しみじゃな。後で計算してはみるが、きっと千年以上生きられるぞい。






 さてさて今ワシは何をしているかというと、この家の書庫にいるのじゃ。もう一人で立つことも出来るようになったのじゃからな!


「えーと、このせかいにちゅいてにゃが……」


 じゃ、がにゃ、になってしまうのはご愛嬌。……と言えば聞こえはいいがただ発音がまだ難しいだけじゃ。ふむ、発声練習もすべきかの?


 まずそれは置いておいて、世界地図を取り出し、パラパラと開く。この本の最初には自国の地図が載っているはず。ここが何という国か知っておらんと、と思ってな。


「ここは……とらんと。」


 ふむ、前世のワシも暮らしていたトラントという国か。まあそうかとは思っておったがの。何せ前世の時に自国の言葉しか勉強しなかったワシでも、今世のママンの言葉が理解出来たんじゃから。


「ふむ、つぎは……れきちを……」


 今が何年で、ワシが死んでから何年経ったのか知りたいのじゃ!


 まあ、ただの興味本位じゃがの。地図を仕舞って歴史書を取り出す。


「えーと、ことちは、こよみさんじぇんごひゃくねん……」


 ということは前世のワシが死んでから五百年後の世界なのか……。


 ワシは前世で暦二千年から三千年の千年間生きておったからの。覚えやすくていいじゃろう?


 そしてパラ、とページを捲るとワシが死んでからの歴史も載っていた。そこに書かれていたことに驚いてしもた。


「え……!?」


 前世のワシが死んでからすぐ、この国は戦争を始めたということが書かれておった。隣国に戦争を吹っ掛けたらしい。


にゃにゆえ……」


 ワシが死ぬのを待っていたかのような素早さだ。ワシが死んで数ヶ月後にはもう始まっていたのじゃから。





 そもそもワシが魔法を開発してこの国にそれを提供する条件として、他国と戦争をしないというものを付けていた。ワシの開発した魔法の中には攻撃的なものも含まれていたからじゃ。


 ワシのせいで争いが起きるなど目覚めが悪いからの。それなのに……


「そのたたかいはせーさんにゃった……か。」


 ワシの開発した魔法や魔道具……ああ、ワシは魔道具も趣味や依頼で作っていたからの。まあ、この話はいいか。


 それらを使っての戦争だったらしい。そりゃあ凄惨にもなるわな。


 ワシのしたことが正解だったのか、分からなくなってきた。


「うう……」


 ああ、幼子は涙脆くてかなわん。ぼろぼろと涙が出てきてしまったではないか。


「うわぁぁーん!」

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