幼児編

1-1

「レタア、あなたの名前はレタアよ!」


 誰かの声で目が覚める。見えるのは天井と柵。天井は適度に煌びやかなところを見るとお金持ちの家の天井にも見える。


 そしてどうやら自分はふかふかな何かに横たわっているらしいことが分かった。


 このふかふかはベッドかの? なんじゃなんじゃ? ワシはあの家で独りで死んでいったんじゃよな? ということはここは黄泉の国かのぅ?


 そうかいそうかい、黄泉の国か。なんだか温かいのぉ……


「レタア、起きたのね。ママでちゅよー。」


 との言葉と共にひょっこりと視界に入ってきたのは美人じゃった。その美人は『ママ』だと言っておった。


 ……ん? 思っていた黄泉の国とは何かが違う。


「あぶぶあぶー」


 んん!? 今のはワシの声か!? ワシは『ママとはなんぞ』と言いたかったのだが!?


 まるで赤子のよう……


「びっ、びゃあああああ!」


 なんじゃこのムチムチなお手手は! 視界に新たに入ってきたのはムチムチなお手手だった。……あれ、ワシが手を握ろうとすると赤子のムチムチなお手手も手を握るのじゃが。


「あらあらレタア、ご機嫌ななめでちゅねー?」

「びゃあああああ!」


 なんじゃなんじゃこれは! も、もしかして……


「あぶあぶぶぶー!」


 転生とやらではないかの!? この世界では輪廻転生という考えがあるからのぅ!


「あーうーあ!」


 赤子の発音もワシじゃな。やはりこれは転生とやらだとワシは認識することにした。


 ……あ、どうしよう。


「レタア、どうしたのー?」

「んぎゃー!」


 赤子じゃからな、動きたくても寝返りすら出来ん! お手洗いに行きたいのに!! ワシは泣き叫ぶことしか出来んのか!!!







「あうぅ……」


 赤子用のベッドの中でメソメソ泣く。


 む、無理じゃ。もう赤子の生活など無理じゃ。前世の記憶がある限り赤子の生活など無理じゃ。何度でも言う、無理じゃ。オムツを他人に替えられるなど恥辱の極み!


 むむ……ならば魔法を使うまでじゃな。この世界で魔法を使えるのは一部の人間だけじゃが、きっとワシには魔法の適性が……あるはずじゃ。そうに違いない。なんたってワシじゃからな!


 前世の時使っていたように魔法を自分に掛ける……


 ふわり、ワシは数センチ浮き上がった。


「あぶ!」


 成功じゃ! ワシ(今世)にも魔法の適性があったのじゃ!


 じゃが……このことは誰にも言ってはならないな。何せ前世のワシは魔法の才がありすぎるが故に孤独となってしまったのじゃから。


 ふわり、元の位置に戻るとふかふかなベッドはワシを優しく包んでくれる。


「ふぁ……」


 その柔らかさに眠気が襲う。……やはり赤子は常に眠いのじゃろうか。ふむ、考え事をするには向かんな。


 ええと、何をかんが、えて……たか、の……


 ワシの意志と反して瞼は重く閉じていくのだった。

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