週末のリンゴ

プロローグ

　こんな言葉がある。

『たとえ明日、世界が滅亡しようとも　今日私はリンゴの木を植える』

　調べればすぐ出てくるような有名な言葉だ。マルチン・ルターという宗教改革家の言葉とされているらしい。

　僕が最初にこの言葉と出会ったのは、マルチン・ルターの本を読んでいた時ではない。第一、本を読む習慣のない僕にマルチンさんの宗教の本を読むなんぞありえない。

　この言葉は、殺人鬼として恐れられたある少女から聞いた言葉だ。

彼女ならもしかしたら、マルチン何とかの本で知ったのかもしれない。彼女は熱心な読書家で、さらに珍しいことに主に評論ばかり読んでいた。