闇夜の猫の喧嘩
大垣
闇夜の猫の喧嘩
ある冬の、雨上がりの深夜のことです。私は布団に潜って瞼を閉じたまま、次はどんな小説を書こうかとか、何が面白いだろうかとか、そういったことを考えておりました。
すると家の外から、なあご、なあごと妙な声が聞こえます。私は最初、それが赤ん坊の泣き声のように聴こえました。しかし外は雀も身を寄せ合うような凍える真夜中なのです。赤ん坊が外に居るわけがありません。またなあご、なあごと聴こえます。私は不気味に思いました。
ひょっとすると幽霊かもしれない、と私は真剣に思いました。
しばらくして、今度はごーろ、ごーろという声が聴こえました。するとそれに答えるかのように、今度はにゃあ、にゃあと聴こえます。
私はそこで、ははぁこれは猫の鳴き声かとようやく分かりました。この辺りでは野良猫の類いは余り見ないものですから、私にとっては聞き慣れない声だったのです。
布団から頭を出して耳を澄ませてみると、猫は二匹居るようでお互いに鳴きあっております。すると突然その鳴き声が、にゃあーと一段高く大きなものになりました。車も余り走らない静かな通りですから、その声は良く響きました。
私はまた、ははぁこれは猫が喧嘩をしているのだなと思いました。私は猫の喧嘩なぞ見たことがありませんでしたが、互いに威嚇しあっているのが鳴き声で良く分かりました。
しかし私は直ぐにでも取っ組み合いが起きるものだと思っていましたが、ここからは存外長いものでした。大きな声で、にゃあーにゃあー、う"ーう"ーという声がずうっと続くのです。片方がにゃあーにゃあーと言うと、もう片方う"ーう"ーと鳴く。これが六分七分と経っても変わりません(皆寝静まった夜でしたから、神経質な人は参ってしまうでしょう)。
私はその声を聴き続けているうちに、不気味な声を恐ろしく思っていたのが次第に馬鹿らしくなりました。しかし私はいつ決着が着くのだろうと興味を持って気長に待っておりました。
するととうとう、しゃあっという空を切る声がしました。私はいよいよ揉み合いが始まったのだと思いました。そしてその鳴き声が二度三度すると、急にその鳴き声がぴたりと止まってしまいました。それから鳴き声は一切聞こえなくなりました。私は決着が着いたのだなと思いました。
私はくしゅん、とくしゃみを一つして、布団の中に入り直します。 夜はいつもと同じように静かになりました。家の柱が一度、みしりと鳴りました。
闇夜の猫の喧嘩 大垣 @ogaki999
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