初恋は失恋した方が成長する
@tatamarin
第1話
小学生の時クラスに一人か二人、女子に可愛がられている男の子っていたよね。
他の男子と違って全然かっこつけようとせず、休み時間にグラウンドに行かずに女の子のグループにくっついている子。ちょっと背が低くて、いつも笑っているあどけない顔つき。女の子たちはその男の子に何か話しかけて、その反応を見て盛り上がっている。
僕はそのような男の子だった。昔からその傾向にあって、女の子から可愛がられることはよくあった。
自分からわざわざキャラを壊していく理由も別になかったから、結果的に僕のその立ち位置がクラスの中で確立することとなった。
他の男の子たちみたいにスカートめくりはできないし、したいという気持ちはぐっと抑えなければならない。
だけど、どうして、時たま女の子から冗談のキスがもらえることもあるのだ。
さらに言えば、男の子たちにいじめられることがないから、僕の立ち位置はとても安全だった。
僕としては女の子たちに話しかけられると、無邪気に返事をしてドジしていれば十分だった。
そんな僕でも好きな子というのはいた。僕と同じくらいの背の低さで、髪は肩にかかるくらいまで伸ばしていて、とてもかわいい顔だった。
その子は、僕に話しかけて盛り上がる女の子のグループの一人ではあった。でも、僕に話しかけることはあまりなくて、ただ話を聞きながらいつも笑っていた。その笑っている顔がさらにかわいいんだ。笑っている顔を見ると、月並みだけど、心が跳ね上がるほど嬉しくなった。
その子に対しては特別思いやりの行動を心がけた。
例えば、クラスの皆が時間を測って静かに算数の演習テストを受けていた。その時、僕の好きなその女の子が、誤って机の中のものをすべてぶちまけてしまった。
他の子は時間が迫っているために自分の優しさを抑え込んでいたが、僕はもちろんその子の教科書やバラバラに散乱した筆記用具をかがんで拾った。僕がその子と一緒に黙々と拾い全部集め終わると、小さな声でありがとうと言ってくれた。
僕はその言葉を聞けた時、たとえ算数のテストの点が50点になろうと30点になろうと、そんなことを気にする気持ちなんて完全にどこかに行ってしまう。
その言葉を聞けるのなら、たとえその子に特別優しくしていると周りから思われても、自分の気持ちをたとえ周りに気付かれても気にもしなかった。
自分の好きな女の子から感謝されるのは、それだけ心弾む出来事なのだ。
さらに、その子を好きになってからというもの、僕は心底自分の立ち位置を幸運に思った。
たしかに僕はドジでからかわれるキャラだから、女の子から恋愛対象の男の子として見られることは絶対にない。
だけど、僕は他の男の子とちがって、まったく不自然に思われずにいつまでも好きな女の子をそばでそっと見ていられたのだから。
これはめったにない幸せなことだ。
僕は、女の子の話によると、かっこいいというよりは幼くてかわいらしいという顔だったし、足も別に速くはなかった。だから、こういうキャラじゃなかったとしても、女の子が僕のことを好きに思ってくれることはない。
この特権があるだけ僕は恵まれていた。
昼休みは基本的に女の子のグループと話しながら校舎を徘徊する。どんなことを話していたのかその例を何か挙げたいけど、残念ながら何を話していたのかまったく覚えていない。実際僕は話を聞いているふりをして、あとは自分の好きな子の顔を見ていただけだったからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます