由々しき関係、されど塩
枯れ尾花
第1話バレンタインの文化を作ったやつの髪の毛を螺髪にしてやりたい。
晴天の霹靂。
目を覚ます。
カーテンの隙間から光が差しこむ。
それは俺に朝を知らせた。
「おはよう俺。おはよう世界。」
今日はテンションが高い。
そのせいか朝の挨拶はキモめ。
没個性が売りの俺にとってはかなり強烈な個性だった。
もし、このままサッカーボールが友達なんて言ってしまった日には僕の人生は宇宙へ、もしくは世界の彼方へ飛んで行ってしまいそうだ。
・・・・なぜ、某超次元サッカーアニメは宇宙人を倒した後の外国人に苦戦したのだろう。
改造人間も然りだ。
登場させる順番を間違えたのでは?と何度見返しても思ってしまう。
閑話休題。
部屋を出て階段を下りる。
3階建ての至って普通の家屋に住む長男が俺。
隣の部屋では妹が寝ている。
両親は2階のリビングにいるだろう。
俺は同じく2階の洗面所にて顔を洗う。
「・・・・・・・・はぁ。男っぽくなりたい。」
俺の顔は何というか中世的というか。
顔周りの毛は皆無、腕にも脛にも生えず、下の方もまだ・・・・・・・・。
たまにうらやましがられることあるが、俺にとってはコンプレックスだったりする。
眉に力を入れれば・・・・・・・・「全然男っぽくない。」
出来ることなら長瀬〇也みたいになりたい。
中学1年生にだってこれくらいの悩みはある。
決してませてるわけじゃない。
そんな憂う気持ちを流水に流し、あえて冷たい水で顔を洗った。
「おはよう。」
「おはよう母さん。」
今日初めての自分以外の人間とのコンタクトに成功。よかった。
どうやら父さんはもう家を出たようだ。
無論、家出をしているわけではない。
仕事に行っただけ。・・・・多分。・・・・仕事と書いて何か他の読み方をしていなければ。
「今日は朝練じゃないのよね?」
「うん。もし朝練だったらジ・オーガ、もといジ・エンドだよ。」
「つまんねぇ事言うなよ。」
「はい。」
閑話休題。
今日の朝餉はいつも通り。
カリッと焼いたトーストの上にはバターが乗り、俺と妹の弁当に入りきらなかったプチトマトとほうれん草の胡麻和え。
そしてぎゅう・・・・・・・・あれ?
コップから湯気が立っている。
「今日は2月14日でしょ。お母さんからのバレンタイン、母ココアよぉぉ。愛する息子のちょっといいとこ見てみたいぃぃぃ!」
「母さん。ココアは嬉しいけど、僕まだ中学生だから。あと、思春期真っ盛りの中学生に向かって愛するとかあんまり言わないでよ。」
「え?」
「そうだよね。愛してるんだから仕方ないよね。お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないもんね。だから、包丁はおろしてください。」
母さんはまな板との対話に戻った。
どうやら俺に反抗期が来る予定は無いらしい。
来世に期待しよう。
歯を磨き、制服に着替え、俺は家を出る。
「いってきまぁぁす。」
「いってらっしゃぁぁい。」
かすかに聞こえる母さんの声を背に僕は学校へ向かった。
こんなやり取りをするのは変なのだろうか。
思春期真っ盛りの中学生なら無言で家を出るべきなのか?
・・・・はっ!俺がこんなにも中世的な顔立ちなのは思春期を発動できていないから?
まぁ、最近のカードゲームは魔法の発動が難しいって聞くし・・・・これは仕方ないのかな?
閑話休題。
雲1つ無い空。その中に唯一輝く太陽はあまりにも目立つ。
しかし、今日はというかこの何か月間はやる気が無いらしい。
吹く風は冷たく、俺の体を芯から蝕む。
鼻先は赤く、指先は自由が利かない。
吐く息は白く、そして少しすれば雲散霧消する。
そう、滅茶苦茶に寒いのだ。
まぁ冬なんだから当たり前なんだけど。
でも太陽が出ているなら仕事をしろよとついつい言ってしまいたくなる今日この頃。
冬の太陽を見ているとゆるっとした百合の主人公を思い出す。
そこに居るのに影が薄いような・・・・・・・・。
主人公なのに・・・・・・・・もうやめておこう。
中学校に到着しました。・・・・って俺はカーナビか?
家からは歩いて15分ほどの距離。
近くも遠くもない、まぁちょうどいいくらいだ。
古い所と新しい所が混在した校舎。
老朽化し、危険が明らかになってからの修復作業のためだろう。
傍目から見て、統一感がない。
が、1年くらい通えばそれも味となり、その獰猛さに双眸を釘づけにされる。
正門に立つ先生に挨拶をし、学校内へと足を踏み込む。
時刻は8時30分。
朝練がないとはいえ、この時間の登校は俺にとってかなり遅い。
普段は生徒でごった返している正門もこの時間だとまばら。
眠そうな生徒が足を引きずりながら登校しているくらい。
そろそろ、どこかのマップで眠っている頃だろう。
大樽爆弾を設置しなければ。
って、俺はハンターじゃなかった。
眠そうな生徒を睥睨し、俺は荘厳な態度で靴箱へ向かう。
そう、
今日は2月14日。
今朝方母さんに貰ったホットココアがそれを物語っていた。
今日は2月14日。大事な事なので2回言った。
そして今日この日は年に1度のバレンタイン。
そう、バレンタイン!
昨今、というか昔からお菓子メーカの策略だと嘆かれている。
だがしかし!だがしかし!(2期まであったでしょ)
男たるもの手ぶらでは帰られない。
俺は前日から猛烈なアピール・・・・・・・・はしていない。
そこまでしたたかに生きられないのが現状。
だから顔立ちが中世的なのかな?
閑話休題。
俺がなぜ遅めの登校なのか。
それは俺なりの気遣いの賜物である。
女の子は恥ずかしがりで、乙女は花すらも恥じらうらしい。
まぁ、男の子は恥じらう感性どころか、花を両足で蹂躙する奴だって時にはいる。
では一体どこが気遣いなのか。
それは、俺の身の回りの物をフリーにする時間をいつもより長く設けているという点。
伝統的な白い目で、チャクラのなんちゃらをこうちゃらすると1撃必殺みたいな?
その時間で女の子は俺の、今なら靴箱にチョコやらなんやらを入れてくれればいい。
ということである。
でもまぁ・・・・・・・・靴箱にはあまり入れて欲しくないかな。
衛生的に。
俺は辺りを確認。誰もいない。
すぅぅぅぅぅぅはぁぁぁぁぁぁぁ。
深呼吸で落ち着きを取り戻す。
「よし。」
その掛け声と同時に老朽化し、鳶色の錆が目立つ鉄製の靴箱を開ける。
・・・・・・・・・・・・・・・・まぁ靴箱の中は汚いしね。
つまずいてしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・靴だけに。
俺は慌てて階段を駆け上がり、教室を目前にする。
始業のチャイムが鳴り響くその前に教室にいないと遅刻扱いになってしまうからだ。
木製の、所々痛んだ引き戸を引き、教室内へと進む。
肩で息をしながらも、自分の席へと向かう。
「おいっすぅ!」
「おう、おはよう。」
そんな軽快な挨拶を仲のいい友達と繰り返し、席へ座る。
俺の席は窓側の1番後ろの席。
後ろの席だからと言って大魔王という訳ではない。
いたって普通の人間。
左隣はこの町の風景。
前は鈴木(男)。
特に言うことは無い。
右隣は・・・・・・・・その前に。
俺は机の中をまさぐる。
机の
せめてタイムリープ出来れば良かったのに。
「なぁけんじぃぃぃ。お前チョコ貰ったかぁ?」
朝礼が終わり、すぐさま前の席の鈴本・・・・ではなく鈴木が話しかけてきた。
なんだぁ?こいつの聞き方。まるで俺が貰ってない事が前提の様な感じじゃないか。
お前はキャィィィィンとか言って、最近のガキにきょとぉぉぉんってされていれば良いんだよ。
と口が開きそうなのをグッとこらえ、頬骨顔面孔の辺りを引くつかせながら笑顔を作る。
「いや、貰ってない。鈴木はどうなんだ?」
こいつだって小学生からの友達だ。
大事にしないとな。
「俺は貰ったぜ!ほれ!」
前言撤回。
鈴木は鞄の中からラッピングされた・・・・・・・・カント〇ーマアムを取り出し、俺の机の上に乗せる。
「ハハッ。ええやろぉぉぉ。福水から貰ってん。これって本命やんなぁ。だってカン〇リーマアムやで?もはや俺のマアムになる言うてるもんやろ。」
鈴木の目は遥か彼方へ飛び、マッドネス、マッドネス、マッドネスだった。
俺は鈴木を見て慄くことしか出来なかった。
そして、間違った優しさは人を欄干から突き落とすという事を学んだ。
閑話休題。
福水愛奈。
彼女は俺と鈴木の共通の友人であり、俺の幼馴染でもある。
親ぐるみの中で幼稚園から小学生低学年の頃くらいまではよく遊んだ。
しかし、今となっては鈴木無しでは話す事すらない。
あいつが俺といるときだけはちょくちょくこちらにすり寄ってくる。
俺はてっきり鈴木の事が好きなのだと思っていたが、そういう訳ではないらしい。
今ではこのクラスをまとめる重役を担っている。
長い黒髪を後頭部で1つ結びにする、いわゆるポニーテールを愛好し、前髪は7対3で分けられ綺麗なおでこが常に露出していた。
制服よりもリクルートスーツの方が似合いそうな彼女だが、眼鏡にはこだわりがあるらしく。
現在は縁の薄い丸眼鏡を愛用している。
常に、何事にも憤慨する彼女はその癖が眉間にくっきりと表れ、眉と眉の間には皺が1本。
吊り上がった目は・・・・・・・・昔からか。
陰では、福水の死因はおそらく憤死になるだろうと噂されている。
昔はもっと素直で優しく大人しい印象だったんだけど・・・・。
1限目の授業が終わる。
「あれ?さっき朝礼終わったばっかりじゃない?」
鈴木。お前は一生喋るな。
やはり、1限目というのはつらいものがある。
勉学に励むよりも睡魔との戦いがメインになってしまう。
だって僕たちはチルドレン。
『汎用人型決戦兵器人造人間』に乗って
俺は健司君なんだけど。
ちなみに隣の女はずっと寝ていた。
あぁ。隣の女ってのは・・・・・・・・・・・・「どぉぉぉぉぉん!」
「いてっ!」
いや、柔らかい。
窓の外を眺め、なんとなく色々諦めていたその刹那、俺の背中に2つの餅が押し付けられた。
正月の残り物だろうか。
せめて、チョコで加工してくれ。
とまぁ、照れ隠しはそんなところにして。
「花子か。」
「はぁ?」
「あっ、
「よろしい。次、花子って言ったら『こけしけこしけこけこの刑』だかんね!磔刑よりキチィかんね!」
『こけしけこしけこけこの刑』のインパクトに刮目するのは分かるが、女子中学生から磔刑なんて言葉が出ていいのかという疑問にも苛まれる。
が、そんなことより・・・・・・・・。
「あのぉー・・・・・・・・・・・・」
俺の口が真実を語ろうとしたその刹那、喧騒に包まれる教室を上書きする怒号が木霊した。
「はぁぁぁぁなぁぁぁぁこぉぉぉぉぉ!不純異性交遊厳禁!今すぐ離れなさぁぁぁぁい!」
肩で息をし、酸欠なのか顔を真っ赤にしながら蛮勇を振りかざす1人の少女がこちらに向かってくる。
それに呼応するように俺の背中の圧迫感は強くなった。
・・・・・・・・ええがなぁぁぁ。
ちなみに隣の女はその怒号に跳ね起き、また寝た。
ミオクローヌス現象じゃないんだから、起きようよ。そろそろ。
「花子!あんた何回言えば分かるの。あんたは存在自体が風紀違反なんだから、過剰なスキンシップはやめなさい!」
「なぁぁに?嫉妬?女の嫉妬は醜いからやめなさいな。三十路にもなって。」
「は、はぁぁぁぁぁぁ?その肥えた豚の腹みたいな物に嫉妬?寝言は寝て言えっての。ああ。あんたは常に寝てるか。脳細胞がぁぁぁぁ。」
俺の背中から肥えた豚の腹、もとい男のロマンはとうに消え、眼前に広がる罵倒合戦へと意識は集中していた。
事実、兎原のプロポーションは素晴らしいものである。
豊満なお胸、細すぎないウエスト、何より絶対領域のムチっと感。
長いニーソと校則違反の短いスカートの間にあるお肉。
猥雑な気持ちを持たない方が失礼である。
その太ももを使った商売ならどんなことをしても阿漕な商売とは言えないだろう。
もちろん、それらは残酷な話だが兎原の顔立ちが素晴らしいという前提から成り立っている。
少し色の抜けた、茶色い髪の毛を2つに結ぶ、名称するならツインテール。
前髪は右に流れる様にセットされており、その柳眉が時折見え隠れする。
パッチリ2重幅に、大きな瞳。
小さな口に広がるのは色気。
事実、兎原のファンはこの学校に腐るほどいた。
福水が猛禽類なら、兎原は小動物。
そんな2人が猫の戦い。英語にするならキャットファイトを繰り広げていた。
・・・・・・・・そろそろ止めなければ。
クラスは寂寞とし、2人の怒号だけが木霊する。
剣呑な雰囲気が漂い始める。
先生が教室に入ってこないことが不思議でたまらなかった。
見えざる手の力だろうか。
俺は傍観者をやめ、2人の間に入ろうとする。
「そろそろやめにしなよ。ほら、2人とも可愛いよ。」
「「どこが!!」」
「え?」
俺は思慮を巡らした結果・・・・・・・・トイレへと駆け込んだ。
鈴木は・・・・・・・・トイレにいた。
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