第24話 帰るか
教室のドアが開いた。
「あ!いたいた!」
「あ、あぁ。これな」
秋次は記録した用紙を結城に渡す。
「ありがとう。え、やってくれたんだ。」
「暇だったからな」
「その手…どうしたの?」
「なんでもねぇよ」
殴った時に怪我と相手の血が付いたままだった。
「喧嘩…したの?あの後に。」
「好きで喧嘩してた訳じゃねぇよ…」
「うん。それは信じるけど、手見せて。」
秋次は結城の言葉に大人しく従った。結城の目が本気で、誤魔化しは効かないと感じたからだ。
「やっぱり、怪我してる。」
結城は秋次の手をとり、まじまじと見て怪我の確認をしている。結城の手は、少し冷んやりしていて、もしかしたら緊張しているのかもしれない。
「理由はあるんだろうけど、無理だけはしないでほしいよ。」
そう言うと絆創膏をペタっと貼ってくれた。
「あ、あぁ。すまん。」
「うん、これで大丈夫!」
「あぁ。なあ、牧に何か言われたのか?」
「ううん。でも、森川くんは悪い人じゃないって言ってたよ。」
「そーかい。」
「うん、じゃぁ帰ろうよ」
「あぁ。」
「あ、でもごめん。お母さん迎えに来てるから途中までなんだけど。」
「そうか。不安か?」
「心配してくれてる?」
「は?気になっただけだ。」
「それ…。毎日じゃないんだけど、お母さんの大丈夫な時は一人で帰らないようにって迎えに来てもらってて、それ以外は沙希とか友達と帰るようにしてるんだ。」
「あぁ。」
それを聞いて秋次は安心した。組の連中が見回りしているにしても一人で帰らないことが一番安全だ。
「森川くんもこのまま帰るの?」
「仕事だ。」
「え?」
結城は変な声をあげて秋次を見た。
「また喧嘩とか?」
「は?ちげーよ。バイトだ。」
結城の中で秋次の仕事が喧嘩って酷い思い込みをしているようだ。いや、まあ、日頃の行いでそうなのかもしれないが…。ちょっと傷ついた。
「え?悪いバイトじゃないよね?!」
「なんだ?悪いバイトって」
「それはほら…オレオレ詐欺とか体によくない薬とか?」
「お前…信じてねーな。」
「冗談だよ。冗談!」
「お前…楽しんでるだろ」
「ごめんなさい。ちょっと驚いちゃって。どんなバイトしてるの?」
「言わねぇよ。」
散々言われたのだ、やり返さなければ気が済まない。結城が楽しそうにしているからそれはそれでいいとしよう。
「うー。教えてよ。」
「気が向いたらな。」
「むー。いじわる。」
「へいへい。」
秋次は結城から逃げるように先に行く。
「逃げた!」
結城も追いかけてきた。そんなこんなしてる内に校門まできてしまった。
「じゃ、また明日。バイト頑張ってね。」
「あぁ。」
秋次は軽く手をあげ、そのままバイトに向かうことにした。色々あったが、悪くない日だと思った。
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