第19話 昼を一緒に

結城が秋次のところにやってきた。表情から少し緊張しているのかもしれない。

「森川くん、お昼一緒にどうですか?」

「あぁ。」

弁当とケーキの入った包みを持って立ち上がる。

「沙希も後から来るから、行こ」

「あぁ。」

結城について行く。

「森川くん、緊張してる?」

「は?んなことないから」

「ふーん?」

「ただ、なんだ。落ち着かないだけだ」

「実は私も。男の子と一緒にお昼なんて初めてだもん」

「そうなのか?男子に人気なんだろ?」

「人気って言われても、それは一方的なものだと思う。見た目とかそう言うので判断されるのは嫌だから」

「まあそうか。」

「そういうのでよく知らない人から告白されても困るというか」

「面倒だな…」

確かに突然、知らない奴から好きだと言われてもいい迷惑だと思う。

「あはは。大変なのは、普段と違う行動をするだけで、色々あると言うか。例えば、いつもと違う人とお昼一緒に食べるってだけで皆んな色々邪推するから、困るんだよね。その人を傷つけちゃうかなって考えちゃうと難しくって」

困ったように笑う結城。人気があることで注目され、日頃と違う行動一つに色々な噂がついて、本人だけでなく関わった人が傷つくこともある。そしてそれは結城の自由を奪うことになる。

「お前、苦労してるんだな。なのに俺なんか誘ってよかったのか?」

「森川くんが嫌じゃなければいいなって。それに私だって…」

結城は自由になりたいと小さな声で言っていたが秋次は聞かなかった事にした。

「そうか。」

人間関係ほど面倒なことはない。秋次自身、結城と関わることに迷いはある。今は、なし崩し的になってしまっているが…。

「だよね。ありがと」

「で、屋上に行くのか」

「うん、屋上だよ」

屋上は誰でも入れる憩いの場になっていて、園芸部によって花壇もあり、ベンチもある。

「あ、永遠!こっち!」

「沙希。なんだもう来てたんだ」

西村がこちらに手を振って場所を教えてくれる。秋次はベンチではなくそのまま下に座る。

「お、森川来たんだね」

「あぁ。」

「相変わらず無愛想〜」

「森川くんもベンチに座るといいのに」

結城がベンチを指差すが、横に座るには狭いし、落ち着かない。

「横に並んでもな。飯食うぞ」

「じゃ、私も下に座るっ」

結城も座り込んで、弁当を広げる。

「えー。じゃ座るし」

西村もベンチから降りて座り、結局3人で囲む形になった。それぞれ弁当を出して準備をする。

「森川くんもお弁当なんだね」

「ああ」

「誰かに作ってもらってるの?」

「いや、俺が」


「え?」

「まじ?」


一瞬時が止まった。そして二人が同時に驚き、弁当の中を覗き込む。

「卵焼きに、ハンバーグ、煮物…普通にうまそーだね」

「森川くんって料理できるんだ。」

結城が秋次の顔を見るが落ち着かないので顔を背けた。

「これくらい普通だろ。」

「沙希…普通じゃないよね?」

「そ、そうだね。」

「森川くん、一つもらっていい?」

「私も私も。」

「はぁ…好きにしろ」

結城は卵焼き、西村はハンバーグを選び、一口食べる。少しの間が空く。


「美味しい」

「うまいじゃん」


「そ、そうか…」

菊寺さんの腕は確かだ。秋次も料理は初めは面倒だったが、菊寺さんの元で学んであれこれできるようになって今では楽しく感じている。そして初めて家以外の人に美味しいと言ってもらえたのは素直によかったと思った。

「森川くん、なんだか嬉しそう」

「知らねーよ」

「ね、森川、これは?」

「お、おい」

西村が秋次の横に置いといた包みを手に取る。

「なになに?」

結城も興味を持ったようで秋次の顔を見て開けて良いか確認してくる。

「もう好きにしてくれ」

秋次は弁当を食べながら結城と西村の様子を眺める事にした。

「カップケーキだよー」

「これも森川が?」

「食べていい?食べていい?」

「美味しいよ!」

「ぐぬぬ…不良にまさかのスキルが…」

「森川くんのが女子力あるよ」

二人は本当に仲がいいのだろう。クラスでは見せない表情や話し方、なにより楽しそうだ。やはり、秋次には似合わない関係だとも思う。ここに来る前に考えた事が頭を過ぎる。家の事もそうだが、暴力や危険な事に巻き込まれてばかりだ。ただ、いい奴が悪い奴にやられるのは気に食わないから自分から首を突っ込んでいる事もまあまああったりするのだが…。

結果的には周囲からは距離を置くのが一番楽で安全になった。

しかし、今はどうだろうか。盗撮関連の問題があるにしろ、結城の行動になし崩し的に関わってしまった自分の落ち度もある。たが、このままだと良い結果を生まない気がしてならない。問題に片をつけたら結城が傷つけてでもどこかで離れた方がいいのかもしれない。

ただ、結城は…なにがいいのか分からないが、体育祭の実行委員の時も、結城がこうして周りを気にしながらも昼飯に誘ったことも、少なくとも秋次を思っての事なのだろう、それくらいは分かるから迷ってしまう。


「…くん?森川くん!」

結城が心配そうに顔を覗き込んでくる。

「あ?なんだよ?」

「話しかけても全然反応ないから心配で」

どうやら考え事に集中し過ぎて気づかなかったらしい。よく見れば二人は弁当もカップケーキも食べ終わっていた。

「森川、大丈夫?」

「あぁ。問題ない。」

「森川くん、ケーキ美味しかったよ。」

「おかけでお弁当残しちゃったけど」

「また作ってきてほしいな。沙希もそう思うでしょ?」

「うんうん。」

「気が向いたらな。さて、そろそろ行くわ」

「そうだね。沙希も行こっ」

「沙希だけに先に行っちゃうね!あとはお二人で!」

「ちょ!」

そう言うと西村は先に行ってしまった。

「たく…行くか」

結城が頷き、二人で歩き始めた。


「森川くん、聞いても良いかな?」

「あ?なんだよ?」

「えっとね、さっき何考えたのかなーって」

「は?忘れた」

「そっか、なんか寂しそうに感じて」

「さぁな。食い意地がはってるから呆れただけかもな」

「ひっど。勘違いならごめん。森川くん一人でいるのには何か理由があるのかなって。」

「お前は面倒な奴だな。」

「かも。」

「今は俺にも分からん。」

「そっか。」

「あぁ。だが、お前がいいならまた飯でも食うか」

今はまだ、悲しい顔は見たくないから今は、今くらいはいいだろう。

「ほんと!また、ケーキあるかな!」

「やっぱ、やめた」

「冗談だよ?」

「知らん。先に行く」

「待って!連絡方法!Line、教えて?」

「あ?Line?なんだそれ?」

「えぇぇ…」

結城にスマホを渡して色々やってもらい、使い方を教えてもらう。

「お?なるほど?」

「そうそう。それでスタンプがこれで」

良い匂いがするから何かと思えば気が結城が真横にいて画面を覗いている。健康的な肌に、綺麗な瞳、唇、ふと結城と目が合う。

「わ、悪りぃ」

「ご、ごめん」

まったく、こんなことで心が乱れた自分が悔しい。結城には困ったものだ…。

「と、とりあえず、これで連絡できるから」

「あ、あぁ。助かる」

秋次はLineとやらを使えるようになった。

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