第18話 朝
秋次の朝は早い。これもヤクザの英才教育の一環で調理場担当している菊寺さんの朝食を作る手伝いと昼の弁当は自分で作る事になっている。土日は夕飯も手伝っていて、おかげで自力で和洋中一通り作れるようになった。
「秋次さん、葱を切っといてください」
「ああ。」
「そう言えば学校はどうです?」
「まあまあかな」
「そうですか、最近の楽しそうだと聞いていたものですから」
「誰からだよ。」
「様子が変わったように感じてますよ」
「どちらかと言うと面倒事ばかりだよ」
「それも青春ですよ」
「菊寺さんこそ、青春はどうだったんだよ」
「色々ありましたよ。恋に喧嘩に」
「そうかよ。」
「秋次さんは自由に生きてください。私たちは廃れゆく存在です。かつてはヤクザは良い意味でも悪い意味でも存在できました。しかし今やそれは難しくなってきています。当主様のおかげでうまくやれていますが、その後は分かりません。だから、秋次さんには自分の道をと皆思っているんですよ」
「分かってるよ。皆んなには感謝してる。」
「それならよいです。」
「あぁ。」
「それで?なにかありました?」
なぜ、そんなに聞くのか。まぁなんとなく情報源は分かるから白旗しかない。
「はぁ…昼を一緒に食べることになったくらいだよ」
「おやおや。相手は女性で?」
「さぁな。」
鋭い目で見られる。どうやら、見透かされているかのように両手を叩いた。
「では、カップケーキを作りましょう。」
「は?なんでそうなる?」
「いいじゃないですか。さ、秋次さん、準備しますよ」
「マジかよ。」
「時間が経っても美味しいようにしっとり作りましょう。」
そこから菊寺さんは手早く材料を用意し、秋次も手伝いながらボールの中に生地を作り、型に入れてオーブンに火を入れて焼いていった。
「料理のできる男はモテますよ。スイーツもできればなお」
「へいへい。スイーツねぇ。」
「面白いですよ。」
「確かにな。」
料理は化学だとも言うが、色々試すのは案外面白い。そう言う意味ではあまりやらないスイーツをやるのも悪くないかもしれない。
「特に料理というのは、自分の生きるスキルでもありますが、誰かに食べてもらえるというのは嬉しいものですよ」
「そういうものか」
食は生きるための基本だ。菊寺さんには、普通の料理について学ぶ一方、サバイバルスキルとしての食も学んでいる。食べられる雑草から蛇やらカエルやらなんだかんだと教えてもらって実際に食べたのはいい思い出だ。
「しかし、俺は一体どこに向かっているんだ…」
冷静に考えればやっぱり普通じゃないな。
「はは、まあ無いよりあった方がいいでしょ」
「お、おう。」
「今度、イノシシの捌き方教えますよ。」
「あっそう…」
イノシシ、イノシシか…
「それでは焼き上がるまでに朝食と出かける準備をしてください」
その後、焼きあがったケーキを持って学校へ向かった。持って行かないと何されるかわからないし…嘘もバレるからな…。
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