不良に絡まれた美少女を助けたら興味を持たれて面倒なことになってしまったんだが

犬小屋

第1話 平和な日常

寒さ残る3月、もう少しで卒業式だ。高校3年、進路が決まり、4月からはそれぞれの道を進むのだろう。

そんな俺、森川秋次も新しい大学生活が始まることが決まった。正直、今でも信じられない。


「合格おめでとう。秋くん」


「おう…あ、ありがとうな。お前のおかげだ」


「ふふ、なに顔赤くしてるの?秋くんが頑張ったからだよ」

目の前で笑うのは、学校一の美少女。


「うるせえよ」

秋次は顔を背けると、カフェの窓ガラスに彼女と自分が見えた。

今思えば、こんな不良だった俺と彼女が付き合うことになるなんて…


「ったく…いい加減にしやがれ」

秋次の周りにはいわゆる不良と呼ばれる連中が倒れている。どいつもこいつも大したことない奴らで大抵群がりたがる烏合の衆だ。

「強い…」

「ちげーよ、お前らが雑魚なんだよ」


倒れた連中にもう興味はない。秋次はビルの間から通りに出て、家に帰ることにする。


そんな秋次も世間一般的には不良と呼ばれる部類に属している。ただ、コイツらとは違う点を挙げるならそれは、闘い慣れていることだろう。

何故か、それは簡単…


門についた表札には「篠原組」と書いてある。ここが秋次の今の家であり、いわゆるヤクザの当主が住んでいる家でもある。

「ジジイ。帰ったよ」

「誰がジジイだ。おかえりよ。秋次。またやりおったんか?」

白髪にサンタクロースかよと思うくらいには白い長い髭の70近いジジイだが、未だに一度も勝てない。

「また絡まれたんだよ。まあ、手加減したし、相手はかるい打撲くらいじゃねぇの」

本気でやり合えば、アイツらもただでは済まなかっただろう。いくら相手から絡まれて反撃したとしてもやり過ぎれば警察沙汰になる。秋次だって警察のご厄介にはなりたいとは思わない。


「ほほっ。致し方ないな。着替えて飯にするぞ」

「わかったよ」

秋次は自分の部屋に行き、着替えてから仏壇に向かい手を合わせる。

「ただいま…親父、母さん」

仏壇には両親の写真がある。秋次が小さい頃に亡くなった。原因は、交通事故だったらしい。


「さて、飯か」

広間に入るとジジイとジジイの世話役の大島さんがいた。

「秋次、飯食ったら練習場に行くからな」

「ジジイ、マジかよ。勉強したいんだけど」

「秋次さん、勉強もやってくださいよ」

「へいへい」

ヤクザの英才教育なんだとか…勉強はもちろん、護身術、料理、サバイバル術、応急処置の医学、時には政治学も…

だからと言ってジジイは組員になれとは一度も言わず、好きに生きろと言ってくれている。


それでもヤクザの英才教育を受けさせるのかというと「うちにいる限り、必ず何かしらあるじゃろう。その時にお前がお前自身を、守りたい人を守れるだけの力は持ちなさい」というジジイの考えだ。


ヤクザにもいいヤクザと悪いヤクザがいる。篠原組はいいヤクザだ。警察にも協力する形で地域の治安を守っている。組合の収益は、不動産業を中心に土地を貸して収益を得ている。もちろん合法だ。


しかし、どうしてもゴタゴタは多いというのは遠目で見ていてもわかる。組合同士の争い、闘争グループとの揉め事、単に利益のある所に群がる連中も多い。

だから、秋次も受け入れているし実際出来ることが増えて楽しい部分もある。

「しゃあねぇなあ…」

夕食を終え、秋次は練習場に向かった。


学校には毎日通っているが学校はあまり好きではない。秋次としてはジジイに逆らえないというのが大きい。勉強に関しては、ヤクザの英才教育の賜物か、それなり出来ると思っている。秋次の通う学校も地元では有名な学校だ。とはいえ不良も居るが…。秋次も過去のある出来事以来、噂が噂を呼んで学校ではヤンキー、不良、危険人物と思われている。


面倒だからそのままにしているし、学校では基本的に人に関わらないし、関わろうとする人はいない。秋次自身、その方が気が楽でありがたいとも思っている。

ただ、その噂のせいで不良に絡まれ、その都度やりあっては退治を繰り返してきた。


4月、秋次は高校2年になり、新しいクラスになって1週間くらい経った頃だ。

「おはようさん、秋次」

「あぁ」

この学校で今現在、唯一、秋次に話しかけてくるのは東山だ。事情をある程度知っているので遠慮なく話せる相手だ。

「秋次さ。結城ってかなり人気だよな」

「へー。」

「当然興味ないよな。お前」

「まあな。天と地くらいの違いはあるな」


結城永遠、美少女で勉強もできる。学年の成績は毎回1位だ。さらに性格もいいらしい。男子はもちろん女子からも人気だ。何人もの男子が玉砕しているとかなんとか…東山情報


「東はそういう情報詳しいな。狙ってんのか?」

「いやいや、それはないなー。それなら秋次とは友達やってない」

東山はニヤニヤしながら秋次を見る。

「さーせん。」

「一緒にいるのが西村沙希」


西村沙希、結城といつも一緒にいる。仲良しらしい。結城が清楚で控えめな美少女なら元気で活発な可愛い女子だ。結城ほどではないが、男子からも人気があるらしい…東山情報


「仲良さそうでなによりだな」

「俺たちもな!」

「きしょいぞ」

東山はなんだかんだいい奴だ。東山には言わないが感謝している。こんなふざけられて平和に過ごせればなんら問題ないはずだった…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る