聖女様は闇の力をご所望です
佐藤アキ
序
雷鳴轟く夜。
月明かりが届かぬ世界は、稲光が走る度に、白い光に照らされる。眩しいながらも昼間とは似ても似つかない不気味な光が幾度となく繰り返される中、
だが、彼は服が濡れることなど厭わない。
会いたい。
話したい。
認めてもらいたい。
少年がそう切望する相手は、与えられている墓地の一角から這い出ていた。内臓のない、リアルな人体模型、アンデッド。
だがアンデッドは、少年の声を聴く間もなく、雨水もろとも土の上に崩れ落ちた。カルシュウムを主とする無機物とそれを支える有機物になり果てた元アンデッド。その遺骨は再びに土に戻された。
その髪は稲光にも負けない神々しさで暗闇で己の存在を主張する。まるで、自ら光を発しているようだ。
少年が声をかけることをためらうと、少女は雨でも崩れることがない黄金髪をゆっくり動かした。
一目散に逃げる少年。
「君――」
少年の背後から微かに声がかけられたが、彼は振り返らず、ぬかるみに足跡を残すことも厭わず走り続けた。
墓から起きたアンデッド。
それを撃ち抜いた黄金髪の少女。
アンデッドに認めてもらいたい漆黒髪の少年。
少年が今宵初めて遭遇した少女は、彼にとって真逆の存在である。それは、髪色からも、アンデッドを再び眠らせたことからも容易に想像できる。
少年は、誰かに咎められることなど何もしていないのに逃げ帰り、湯をかぶり、冷えた体を温めて布団に潜りこんだ。夜眠れるようにいつも枕に垂らす眠りを誘う香りも今は効果がない。
一滴。もう一滴。あと一滴だけ。これで最後。
そう増やして寝付くと、少年は幼い頃の夢を見た。たまに見る、境界不明瞭な夢だ。
僕は香りにつられて目を開いた。
でも、その香りは目を閉じていた方がはっきりと感じられる甘い心地の良いもの。その香りをもっと堪能したくて微睡みかけた僕を、誰かが揺り起こした。
目をこすった後の滲む視界の中には、朧な黒い塊。それは、僕の瞳が露になると、急に輪郭をホロホロと毛羽立たせ、空気に溶け込むように消えていった。
明瞭になった視界に広がる、墓地。
その粘土質の地面を、自分の足で、自力で踏みつけることができた。「ぐにゅ」という、靴がめりこみ汚れる不快音は、視界に続いて僕の思考の靄も引き剥がしにかかった。
「ああ、『僕は』助かったんだ」
それまでの出来事は忘却の彼方。だから、当時の、まだ幼い俺が安堵してしまったのも、仕方がないこと。……そう、だろう、か?
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