6章
初恋の前兆
1人の女の子がいた。
家族は父親、母親、兄が2人の一般的な家庭で、女の子自身も特徴的がない普通の子だ。
だが、父も母も兄さえも体育会系と言うかサバサバとした感じの性格で、末っ子の女の子にあまり発言権はなかった。別に強要された訳ではないが、家族内では女の子は家族の意見にただ従うだけだった。
そんな育ちをした故に、女の子は引っ込み思案の暗い性格になってしまい。
幼稚園、小学生に上がってからも友達は1人も出来なかった。
いつも教室の隅で絵本や本を読んだりと他者とあまり関わらなかった。
これは女の子が望んだ事ではなく、女の子自身も友達と遊びたい欲求はある。
だが、家庭内でも意見を押し殺して来た女の子はどんな風に接すれば友達が出来るのか分からない。
コミュニケーション能力が皆無であろうか、ただ、他人との接し方が分からないのだ。
登校も1人、学校でも1人、下校時も1人、休日さえも当時は父と母は共働きの休日出勤、兄2人も部活で家を空け、休日も1人の孤独な生活。
まだ小学1年にも関わらずに女の子は悟った様に先の将来に不安を持っていた。
————このままずっと1人なのかな……。
嫌だ。女の子はそう内心で叫ぶ。
だが、1年の始まりでグループに入るのに失敗した女の子はどう声を掛ければいいのか。
本当は幾度かクラスメイトの子から遊びに誘いはあったが、言葉をたどたどしている内に変な奴と烙印を押されて、今では誰も女の子に話しかけない。
そんな現状で女の子から一緒に遊ぼと声をかければ、嫌がられないだろうか。ウザがられないだろうか。
孤独な事が嬉しい訳がない。誰かと一緒にいたい。誰かと遊びたい。
閉ざした口でも心の中では寂しさの叫びをあげる女の子に、一筋の陽光が差し込む。
「おいお前。いつも1人で本を読んでるな。そんな事よりも、一緒に遊ぼうぜ」
それが、女の子—————高見沢千絵の初恋の前兆だった。
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