124.僕は魔族を滅ぼした
やっぱり、エリュには言えなかった。醜く汚い僕の本性を、曝け出す勇気は出ない。だって、今の魔族は本来の魔族ではないから。
ミランダから後の世代は魔力が弱まっていた。出来ることも少ないし、魔法の力も徐々に消えつつある。その原因を作ったのが僕だなんて――誰が信じるだろう。守護神と信じる存在が、一度は魔族を滅ぼしていた。そんな話を聞かせたくない。
はしゃぐリンカ達の姿と真逆で、エリュの表情は晴れない。ベリアルも何か気づいたらしい。言うべきか、一瞬だけ迷う。
「私はシェンの話が聞きたかった」
作った上部だけの話ではなく、悩みを相談されたかった。そう呟いたエリュに、ベリアルが静かに同意した。頭を撫で、抱き上げたエリュの背中を叩く。相談してもらえなかったと落ち込む幼女に、シェンは唇を噛み締めた。
「わかった。じゃあ……夜にまた」
結局甘い。ミランダの血筋に甘いのはもちろん、僕は自分にも甘いんだ。抱え込んで苦しむ毒のような記憶を、エリュやベリアルに撒き散らして楽になろうなんて。薄まれば消える記憶じゃないのにね。自分のことしか考えない卑怯者だ。そう罵っても、シェンは選べなかった。
もう無理なのだ。隠し通せるものではなく、エリュが悟ってしまったなら……これが限界だ。エリュの両親が早くに死んだのも、その時期に僕が眠っていて起きなかったのも、すべて魔力が薄まったせい。本来なら届くはずの祈りを聞き逃した。
リリン達と一緒に食べた食事は、味がしなかった。きっと美味しかったはずなのに、砂を噛むような気分を味わう。それでも笑みを貼り付けて過ごした。エリュに嫌われてしまえば、僕はもうここにいられない。
怖い反面、気づいていた。僕は平和に馴染めず、エリュ達の温かく柔らかな雰囲気の中で、異物なのだと。だから居心地が良くて、同時に罪悪感が募る。暴かれると恐れるより、楽になりたくて逃げた。
それぞれの私室に引き上げ、エリュと向かい合う。少し待つと、ベリアルが顔を覗かせた。
「ご一緒しても?」
「いいよ」
部屋の主でもあるエリュが許可を出し、僕も静かに頷いた。ベリアルも気付きつつあるし、隠してもいずれ答えを探し出すだろう。彼は優秀だからね。早いか遅いかの話だ。時間を稼ぐ必要はなかった。
「僕はね、魔族を滅ぼした。本来の魔族は、もっと強大な力を持ち姿形も異形だったよ。圧倒的な力を振り翳し、人族や妖精族に戦いを挑むほどに」
エリュは深刻さが分からないのか。目をぱちりと瞬いた。
「ミランダの前の皇帝は、魔族最後の皇帝だ。重税を課して民を苦しめ、残虐に人々を殺した。奮起したミランダだけど、彼女は妖精族との混血でね。純粋な魔族の王である吸血鬼に、届かなかった」
負けたミランダを、僕が回収した。殺されるところを掠め取り、癒して力を与える。もう一度戦えと嗾け、血塗られた道を歩かせた。吸血鬼王と僕、どっちの方が残酷だったと思う?
泣きそうな顔で、シェンはそう呟いた。
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