117.子猫は獅子を心配する
最近、シェンの様子がおかしい。仕事が忙しいのは分かるし、私がまだ子どもだからベリアルと一緒に何か難しい話をしていても、理解できないけど。そういう疲れじゃなくて、何かを堪える顔をすることがあった。
きっと聞いても教えてくれない。シェンは大きな蛇の神様で、魔族を助ける存在だから。嫌なことがあっても我慢しちゃうと思う。エリュはそう吐き出した。
「エリュはシェンが心配なのだな」
リンカはそう言って、柔らかな銀髪を撫でた。お父様やお母様の記憶はないから、エリュが知ってるのはベリアルやリリン、シェンの優しさだけ。ナイジェルとリンカも加わって、メレディスも宮殿に来てくれた。侍女のケイトやバーサも優しい。
いつも守られてばかりなのが嫌なの。
「そんなの、贅沢だけどな。気持ちは分かるよ」
同情するナイジェルに笑おうとして、エリュの顔がくしゃっと崩れた。泣きそう。でも皇帝陛下は人前で泣いたらダメなの。ぐっと堪えた。相談したくせに泣くなんて良くないし。
「シェンは何を隠してるのかな、聞いたらダメなこと?」
鼻を啜って誤魔化しながら尋ねる。
「シェンが大事なら、聞かずに一緒にいてやるといい。言えないこともある」
「うん、リンカが正しい。政は綺麗な話ばかりじゃないから、エリュに聞かせたくないんだろうさ」
リンカとナイジェルにそう言われ、交互に頭を撫でられた。エリュは友人達の言葉を素直に受け止める。シェンが話したくないなら聞かない。もし相談してくれたら、ちゃんと聞く。だから笑顔を作った。これは得意なの。
エリュを心配するベリアルやリリンのために覚えた表情だけど、二人ともいつも騙されたフリをしてくれた。
「皇帝陛下って役職も大変だな。俺はごめんだ。支える側のが気が楽でいいや」
「ナイジェル、支える方の覚悟も相当だぞ。お前は好き勝手して、放逐される側だな」
くすくす笑って、リンカがナイジェルをやり込めた。だが、ナイジェルのようなタイプは、意外にも人心を集める。王位を狙わず、王家の評判を高める意味で彼は貴重な存在だった。
「帰ってきたら、シェンと一緒に昼寝しようよ」
そう提案するエリュへ、ナイジェルもリンカも頷いた。本来なら男女で一緒に寝転がるのは問題だが、侍女やベリアル達が頻繁に出入りするリビングなら問題ない。昼寝となれば、咎める者もいなかった。
「シェン、こっち」
「どうしたの? 今日はまだお昼寝してなかったんだね」
玄関ホールでエリュに捕まったシェンが、手を引かれてリビングに入る。見た目は5歳前後の幼女なのに、見慣れるほど年上の余裕が滲む。赤い瞳をぱちくりと瞬く彼女を中央に寝かせ、周囲を3人で取り囲んだ。
「お昼寝から起きるまでいてね」
「うん、いいよ」
シェンはエリュのお強請りに、即答した。その言葉通り、静かに目を閉じる。束の間の休息――小さな嵐がすぐそこに迫っていた。
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