85.性格が出る遊び方
玄関ホールでリリンの見送りを受け、ベリアルが同行する。本来、護衛は騎士の仕事だが、ベリアル自身が納得しなかった。リリン以外の騎士を信用していないせいだろう。腕はともかく、人格や利害関係を考えると頭が痛いのだとか。
リリンは「難しく考えすぎ」と笑うが、ベリアルの慎重さは宰相の資質として役立っている。逆に武を尊ぶリリンの豪快さは、軍を率いる将軍にふさわしい物だった。互いに正反対だからこそ、ぶつかりながらも尊重するのだ。
「いってきます」
「お気をつけて」
見送りのリリンへ手を振り、転移で街の片隅に転移する。リリンの友人でもある行きつけの店でお昼を食べる話は、シェンからベリアルに通してあった。ついでに、店主を新しい衣装係兼料理人として雇うことも。ベリアルは、お昼を食べるついでに人柄をチェックするつもりでいた。
大人の思惑をよそに、子どもは今日も無邪気に屋台に目を輝かせる。見たことがない異国のお菓子を発見し、挑戦することになった。作り方をリンカが知っていたので、全員でチャレンジする。
大きな1本の麩菓子を購入する。そこへ棒がついた他の菓子を刺せるだけ差し込む。麩菓子を購入した代金に、付属するお菓子の金額も含まれるため、たくさん刺した方が得だった。
「頑張ってください」
「うん!」
ベリアルの応援を受けて、銀髪を揺らして頷いたエリュが先陣を切る。隣でリンカも始めた。麩菓子は柔らかく、穴が開きやすい。たくさんの菓子を得るために横向きに刺すと、飴やチョコの重さで抜けてしまう。少し上から下へ刺すのが成功の秘訣だった。
慣れたリンカの手元を見ながら、エリュも頑張る。手で持つ部分がなくなるくらい刺した。刺さった棒が上の棒を支える形になっている。なかなかの力作だった。ある程度上品に隙間を残して刺したリンカに対し、4割近く本数が多い。
「はい、合格」
決められた秒数経っても抜けたり折れたりしなければ、麩菓子ごと袋に入れてもらえる。その後は抜いても食べても自由だった。エリュが袋いっぱいのお菓子に頬を緩める中、腕まくりをしたナイジェルが気合を入れる。
「よしっ! 新記録挑戦だ」
「欲張ると損するよ」
年の功でシェンが忠告するが、聞く耳を持たない。麩菓子をしっかり握って突き刺した。一度刺した棒を動かすと、穴が広がって抜けやすくなる。一度で角度や深さを決めるのが難しいのだが……。
ちょうど同じ頃、リンカが合格をもらい袋に入れた飴を口に入れた。小さな赤い飴を味わう彼女を見て、エリュもチョコを口に入れる。当然のように袋をベリアルに示した。
「ベルぅ、どれがいい?」
「そうですね、この飴がいいです。ありがとうございます」
以前なら遠慮したベリアルだが、もらう方がエリュも喜ぶと理解した。今は素直に受け取って口に入れる。お礼を言われて嬉しそうなエリュが、シェンの様子を横から覗いた。
魔法などのズルはしていないのに、器用に刺していく。シェンの心配はいらないと判断し、エリュは隣のナイジェルを振り返った。かなり刺さっているが、刺し過ぎのような気がする。グラグラするのに、まだ欲張って飴に手を伸ばした。
「あっ!」
ぐしゃりと麩菓子が折れて、お菓子がほとんど落ちてしまう。残ったのは、掴んでいた根元近くに刺さった数本だった。
「くそぉ」
「だから言ったじゃん。欲張るなって」
「人のこと言えないだろ」
ナイジェルが指摘した通り、シェンの麩菓子にも大量の棒が刺さっている。しかし刺した棒のバランスがよく、内側で棒同士が支え合う形になった。
「坊ちゃんは残念、これはおまけしておくね。お嬢ちゃんは合格だよ」
店主のおばあさんに袋に入れてもらい、ナイジェルはさすがに少な過ぎるとオマケを貰った。再チャレンジしたがるナイジェルを引きずって、メレディスの店へ向かう。こういう遊びは一度だから楽しいんだよ。そう笑ったシェンに、ナイジェルは何とも言えない複雑な顔をして頷いた。
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