83.用意された部屋のお披露目
街遊び初日にメレディスを勧誘し、芝居小屋を堪能した。彼女の店で外食もしたので、その日は宮殿に戻った。中身の濃い一日だったので、満足感は高い。シェンの部屋として用意した、エリュの向かいの客間は改装された。
シェン自身、ほとんどエリュの部屋に入り浸っている。眠る時も一緒なので、自室は不要だった。服や荷物も魔法で収納するため、保管場所もいらない。代わりに空いた部屋をリビングにした。
改装して、寛げるベットソファを置き、休憩スペースを作る。靴を脱いで転がれるよう、部屋の奥半分に分厚い絨毯を敷き詰めた。クッションや毛布も用意され、快適なお昼寝空間だ。
ナイジェルの到着に合わせて改装された部屋を見回し、リンカも目を輝かせた。
「すごいな! こんな部屋を用意したのか」
「ごろ寝できるのは楽でいい」
リンカとナイジェルの喜ぶ顔に、エリュが得意げに顎を逸らす。幼い友人の仕草に、くすくすと笑いながらシェンが種明かしをした。
「この部屋はエリュの発案だよ。食後やお昼寝を含め、皆で過ごせるだろう?」
王族や皇族には、リビングの概念はない。家族全員が顔を合わせるのは、仕事か食事の時くらいだ。夜会などは仕事に含まれるし、他国の使者との顔合わせもあった。謁見の間で貴族や他国の使者がいる場面なら、家族の顔合わせと表現しない。
その習慣を打ち破る提案だった。自室に篭ってもいい。でも人寂しい時や、ちょっとした時間に集まる場所があったら素敵だ。シェンは少しばかり口出ししたが、基本的な部分はエリュの意見を優先した。
外交と呼ぶには程遠いが、他国から留学した二人をもてなす行為の一環だ。リンカとナイジェルが喜んだ顔で、エリュは自信を持ったらしい。自分のこだわりを説明し始めた。
絨毯をふかふかにして土足厳禁にしたのは、妖精族の習慣を本で読んだから。木や蔦で覆われた石造りの屋敷を構える妖精族は、玄関ホールを入れば靴を脱ぐ。一段高くなった部屋は土足で踏み入らなかった。絨毯部分はその考えを取り入れている。
「靴を脱ぐなんて、ベッドと風呂くらいだ」
からからと笑いながら、ナイジェルはさっさと靴を脱いだ。絨毯にごろんと転がり、気持ちよさそうに両手を伸ばす。
「よく勉強してるんだな、エリュ」
「うん!」
リンカの褒め言葉に、幼い皇帝は頬を緩めた。興奮でほんのり赤くなった肌が、可愛らしい。
「あとね、こっちは人族のお屋敷を調べたの」
ベッドソファだ。貴族の屋敷では見かけないが、平民が多用していると聞いた。普段はソファとして使い、友人や親族が泊まりに来るとベッドとして使用する。その話を耳にして、すぐに侍女達と打ち合わせを始めた。
「ああ、なるほど。あれだな」
心当たりのあるナイジェルが頷く。ソファベッドは大きくて、ベッドにしては硬めだった。寝転がる目的もあるが、椅子としての座り心地を重視したのだ。この部分に関しては、侍女バーサの進言があった。
彼女の親族に人族の平民と結婚した者がおり、ソファベッドについて聞き出してもらったのだ。その際に平民が使う物と説明を受けたが、うまくぼかして伝えた。知っているナイジェルも口にしない。用意してもらった気持ちを台無しにしたくないし、何より想像より快適だったのだ。
「こりゃいいや。パズルとかゲームをやろうぜ」
「エリュはチェスが得意だよ」
シェンの一言で、ナイジェルが相手を買ってでた。王族なら一通りのルールは学んでいる。戦った結果、3勝1敗でエリュに軍配が上がった。
「くそっ、絶対に次は勝つ」
「お前の腕前では遠いな、次は私だ」
リンカがナイジェルを押し退けて、エリュに挑戦する。明日は街に出るため、今のうちに遊び倒すつもりだろう。寝転がって勝敗の行方を見守りながら、シェンは幸せそうに微笑んだ。
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