66.宰相閣下の底力?
バティン伯爵の悪巧みを暴いたお陰で、土竜族の住む山に鉱脈があることが判明した。ゲヘナ国としては、きちんと管理する必要がある。これらは住人である土竜族の財産であると同時に、国にとっても重要な存在だった。
「というわけで、彼らと話し合いをしたんだよ」
皇帝エリュに聞かせるシェンは、物語のように続けた。
「土竜族の望みは陽が降り注ぐ明るい土地だろ? 鉱脈が出てきた山は先祖伝来の土地で、移動したくない。だったら山に陽があたればいい」
山の一部を切り拓いて、そこから鉱脈にアクセスする。ついでにそこへ新しい巣を作ればいいと提案した。全面的な採掘権を国に預ける代わり、外部との折衝をすべて国が請け負う。産出量は毎回お互いの監査を経て突き合わせ、問題がないか確認することとなった。これで彼らは煩わされたり騙される心配なく、利益を享受できる体制が整う。
「モグラさんはお金がもらえて管理しなくて、明るいお家に住めるの?」
「そうだよ」
エリュの要約を聞くと、彼らばかりが得をしたように聞こえる。だが国ももちろん、採掘量に応じた管理費用を受け取るので損はない。しかも国が管理することで、外国勢力に抑えられる危険性も排除できた。
「誰も損しない?」
「そうだね。ベリアルが忙しくなったかな」
彼は気の毒だ。文官のトップなので、他国との調整や交渉の窓口になった。忙しさが増したはずだ。何らかの手を打ってやろう。考えながらシェンは頷いた。エリュは心配そうな顔をした後、ぽんと手を叩く。
「そうだ! お菓子焼いてあげる。喜ぶよ」
「それはいいね。ケイト達と焼いたらいい。僕はお勉強してくるね」
理由をつけて青宮殿へエリュを残し、ベリアルの元へ向かう。途中でリリンに声をかけ、エリュの警護の強化も頼んだ。執務室に入ると、山積みの書類の間にベリアルのツノが覗く。彼は完全に書類に埋もれていた。
「シェン様?」
「ちょっと見せて」
書類をばさっと掴んで、手早く分類していく。運ばれた順になっていた書類は、あっという間に三つの山に変わった。驚いた顔で見守るベリアルへ、一番左側の山だけ押し付ける。
「これはベリアルの決裁が必要だけど、これは不備で却下。残るこれは、部下の裁量で決裁出来るよ」
「はぁ……ありがとうございます」
この仕分けが出来る文官を育てれば済む。運ばれたらすべて自分で処理しなければならないと考えるのは、ベリアルが真面目すぎる証拠だった。
「部下を育てないと、次世代が心配だよ」
「承知しました」
これまた真面目に受け取って考え込む姿に、シェンは溜め息をつく。これはしばらくかかりそうだ。まあ、僕の人生は長いから付き合ってあげるよ。そうぼやいて、書類を分類する役を作るよう指示した。
「数百年前も同じようなこと手伝った気がする」
歴史は繰り返す。シェーシャが眠るたびにリセットされる国の仕組みを嘆きながらも、蛇神は楽しそうだった。ゲヘナの改革は、これからも課題のままになりそうだ。
「あ、早く片付けないとエリュが」
言葉が終わるより早く、ノックの音がする。青宮殿の侍女バーサが優雅に一礼した。
「エリュ様がお呼びです」
「クッキーが焼けたんじゃない?」
彼女がクッキーを焼いていると聞いて、驚くべき速さでベリアルが書類を処理していく。部下を育てる必要がなかったの、この所為か。思わぬ展開に、シェンはくすくす笑いながら先に宮殿へ向かった。早くしないと、可愛い皇帝陛下が拗ねちゃうからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます