34.両親の思い出を寝物語に
先代皇帝は一言で表現するなら、脳筋だった。脳味噌どころか、毛の一筋まで筋肉のような……世の中のすべては筋肉で片が付くと考えるタイプだ。エリュの父親アドラメレクである。
逆に妻となったフルーレティは思慮深かった。考え過ぎて悩んでいる間に周囲が解決しても、まだ悩むくらい慎重な女性だ。ある意味、出会うべくして出会った二人だった。タイプが真逆すぎて、お互いを新鮮に感じるほどに。
そんな両親の話を、目を輝かせたエリュは聞きたがった。小さなエピソードをいくつか話してやる。エリュには両親の記憶は、ぼんやりとしか残っていない。抱き上げてくれた腕が太かったとか、温かい手で撫でられた程度の思い出だった。
シェンも長く眠っていたため、なぜ二人が亡くなったのか知らない。ただ、出会った頃の幸せな二人の思い出を、ぽつりぽつりと語った。
「じゃあ、パパはママに「好きだ」って言ったの?」
「ああ、言ったとも。大好きだと叫んで、なぜか裸で走り回った。僕はよく分からないけど、フルーレティはそんなところも好きだったみたいだよ」
「裸で」
「真似したら風邪ひくよ」
注意しておかないと真似をするに違いない。シェンの言葉に、エリュは少し残念そうだった。絶対に真似するつもりだったな。止めておいてよかった。ほっとするシェンの向かいで、侍女のケイトが苦笑いする。
温めたミルクを用意し、二人の前に並べた。甘い蜂蜜の香りがするミルクは、お昼寝前の決め事だ。シェンとエリュは並んで座り、ゆっくりと飲み干した。この後、ケイトに絵本を読んでもらうのが日課だが……今日のエリュは両親の話を強請る。
「もっとパパとママのお話がいい」
「いいよ。じゃあ、フルーレティに一目惚れしたアドラメレクの話をしようか」
ここにエリュがいるのは、両親が結ばれたから。ドラゴンの血をひくアドラメレクは、獲物を追って他種族の領地に侵入した。脳筋と呼ばれる彼は、それが外交問題になると思っていない。圧倒的強さを持つ彼は、捕らえに来た吸血種を蹴散らした。
武力では強さを誇るドラゴン種だが、頭はかなり残念な者が多い。古代竜であれば賢者と呼ばれる賢さを持つが、アドラメレクにその知能はなかった。智で勝る吸血種に罠にかけられ、意外なほどあっさり捕獲される。
領域を犯したとして、処刑対象になったアドラメレクは、領主の娘であり一族の祭祀を司るフルーレティに一目惚れした。拘束する鎖を引き千切り、彼女に愛を乞う。跳ね除けたフルーレティだが……。
話を止めたシェンは、隣でうつらうつらと頭を揺らすエリュを横たえる。
「続きはまた明日にしようね」
答えはなく、ただ寝息が響いた。ケイトと目配せした後、シェンもベッドに潜り込む。君の両親の恋物語は、かなり長い。時間をかけて語ってあげよう。両親の思い出が僅かでも増えるように。
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