21.大量のお土産とぬいぐるみに囲まれて

 すでに果物の土産を手に入れているが、土産が多いのは問題ない。青宮殿には、侍女以外にも働く者がいるのだから。料理人や下女などに回して貰えばいい。


「飴、いっぱい可愛いね」


「いっぱい買ってこうか」


 微笑みあって、選んでいた手を止める。それから数歩離れた位置で見守るベリアルを手招きした。明らかに上位魔族であるベリアルへ、店主が頭を下げる。すぐに顔を上げたのは、合図があったからだ。


「ここからここまで。すべて持ち帰りますので、会計してください」


 シェンの示した端から端まで、購入すると告げた。目を丸くした後、店主は慌てて包もうとするが、手が震えている。店の全商品ではないが、7割近い購入量だった。これでひと月分の売り上げに匹敵する。


「あのね、ベリアルが運ぶから包まなくていいよ」


 シェンが声をかけると、腰が抜けたのか。店主はぺたんと座り込んでしまった。近づいたエリュが「よしよし」と声に出しながら撫でる。誰かにしてもらったことがあるのだろう。お爺さんと呼ぶ年齢の魔族を、幼女が撫でる光景は微笑ましい。


「エリュ、全部買うと他の子が悲しむから、ここら辺は残していこう」


「うん」


 支払いはベリアルが目算で行い、少し多めに渡すようシェンが指示した。というのも、話し掛けたせいで練り途中の巨大な飴をダメにしたのだ。エリュは気付いていないので、黙っていることにした。気に病むと可哀想だ。


「他に寄りたい店はありますか?」


 飴をまとめて収納したベリアルの言葉に、エリュは「はい」と手を挙げた。


「どうぞ」


 宮殿の外なので、出来るだけ名前を呼ばないようにしているらしい。確かに幼子にいい大人が様を付けて呼べば、目立つだろう。臨機応変、意外と慣れているベリアルをシェンは見直した。


「お部屋に置く大きい大きいお人形欲しい。熊!」


「……狼ではダメですか」


 なぜか食い下がるベリアルは、そういえば獣化すると狼だったか。変なところで拘るベリアルに苦笑いし、シェンは理由を聞いた。


「どうして熊なの? 蛇じゃダメなの?」


 そっと自分の本体も混ぜておく。うーんと悩んだ後で、エリュは理由を口にした。


「あのね。前に出会った子が熊を持ってたの。もふもふで柔らかくて。お母さんにもらったんだって」


 ああ、そういうことか。一瞬で察してしまったシェンとベルアルが唇を噛む。熊が欲しいのではなく、お母さんから貰ったの部分に反応したのだ。こればかりは、魔族の守護神と呼ばれるシェンも、手の打ちようがなかった。死者を呼び起こす方法はない。


「どのくらい大きかったの?」


 大きいを強調したエリュは、両手を目一杯広げた。その様子を見たシェンが、ふふっと笑う。


「いいよ、大きなのをたくさん買って帰ろう。部屋をすべてぬいぐるみで埋めちゃおう」


 きょとんとした顔の後、エリュは嬉しそうににっこりと笑顔を浮かべた。それから手を繋いだシェンに促され、ベリアルが反対の手を繋ぐ。人形や玩具を取り扱う店に寄り、棚に並ぶぬいぐるみを端から端まで。エリュの背丈より大きいぬいぐるみをすべて購入し、ベリアルは無言で収納へ収めた。


 帰宅して部屋に並べると、どこを見てもぬいぐるみがある光景が広がる。ふかふかの熊や狼を撫でながら、幼女二人は笑顔でベッドに転がった。なお、ベッドの中央には長細い蛇の抱き枕が置かれ、両側から幼女に抱きしめられたとか。


 お土産は翌日から、侍女から宮殿に出入りする商人に至るまで分け与えられた。

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