ハッピーバレンタインデー
影神
チョコレート
ピッ、ピッ、ピッ、
この音にも聞き慣れてしまった。
「ねえ?
私が、おばあちゃんになっても。
私と、、
こうして。
デートしてくれる?」
こんな事になるなら、仕事なんてしなかった。
金が無くて、喧嘩しながらでも。
君の隣で笑って居たかった、、
ピッ、ピッ、ピッ、
「ね、、?
早く。起きてよ、、」
何不自由無く。
順調に。
物事は、進んで行った。
たまにすれ違っても。
直ぐに仲直り出来た。
「ただいま、、」
今日も。
大好きな君が迎えてくれるはずだった。
「あれ。出掛けたのかな?」
電気は付けっぱなし。
「おーい。
隠れてるの??」
扉を開けると、床に倒れている彼女が居た。
ピーポーピーポーピーポー。
頭は真っ白になった。
今朝もいつもの様に。
優しい口付けの後の、
彼女の唇の感覚が名残惜しくも、
「行ってらっしゃい?」
の笑顔で、俺は家を出た。
何もそんな予兆は無かった。
いつもの君が、、
いつもの笑顔が、、
ピッ、ピッ、ピッ、
もう、何年になるのだろう。
時間の感覚すら無い。
君が放つ心音を。
ただ、機械の音と共に鳴り響くのを。
聞いて居るだけの空間。
静かな病室。
新しい花。
「君なら、喜んでくれるよね。。」
水を替え、彼女の手に触れる。
「由香里さんの容態は安定していますが、、
いつ覚めるかは、分かりません、、」
何でこうなってしまったのか、、
きっと。
由香里を大切にしなかったから。
由香里の側に居れた時間があったのに、
来るかも分からない未来ばかりを見ていたから。
これは、自分への
罰。
「なあ、、明日はバレンタインだな。
前に、一緒に。作ったよな、、」
由香里「もお。
ちゃんとやってよ、、」
呆れ顔の彼女の横顔を見ながら、
俺はそんな時間を楽しんでいた。
あまり甘いのは好きじゃ無かったけど。
由香里の一生懸命な表情が見たくて。
邪魔ばっかりしてた。
「、、、。
また来るよ。
おやすみ。」
真っ暗な部屋。
散らかった部屋。
由香里の居ない部屋は。
明かりの付かない暗闇だった。
「片付けないと、怒られるよな、、」
散らかった物を片付け、
溜まった洗濯物を洗う。
「はあ。」
深い溜め息と共に、何となくテレビを付けた。
テレビ「明日はバレンタインデー。
大切な人に想いを形にして伝えてみませんか?」
「想いを形に、、」
テレビに促されているかの様に、キッチンへと向かう。
棚を開けると、由香里の本があった。
「チョコレート、、」
湯煎して、型に入れて、冷めたら冷凍庫に入れる。
単純な工程だった。
「、、やってみるか」
慣れない作業。
流れる様にこなす由香里とは対象に、
「あちっ、、」
「あぁ、ああ、、」
失敗と、散らかしと、汚しを繰り返し。
「出来た、、」
朝日がカーテンの隙間から入る頃。
チョコレートは完成した。
歪なチョコ。
久しぶりにカーテンを開けた。
「きたな、、」
日に照らされた床は、埃で汚れていた。
お店がオープンする頃に向かい。
柄にもなく、ラッピングする物を買う。
「これでいいか、、」
何が好きなのか。
どういうのが好きなのか。
そんな当たり前な事も分からなかった。
好きな色。好きな花。
あんだけ一緒に居たのに。
由香里の事を大して知りもしなかった。
当たり前の存在。
後で聞けば良い。
今度、、。
そのいつかは、、
無いのだ。
涙でぐちゃぐちゃになりながら、
チョコレートを箱に詰める。
「リボンなんか、柄にもない、、」
袋に入れて、花を買って、由香里の所へ向かう。
「こんな気持ちなのだろうか、、」
変な高揚感。
喜んで貰えるだろうか、、
美味しいって言って貰えるだろうか、、
由香里の病室を開けるだけで。
こんなにも心臓が脈打つ。
ピッ、ピッ、ピッ、
そこには変わらない由香里が居た。
「おはよう、、」
カーテンから入る日差し。
外から入る風で、カーテンが揺れる。
花を替え、水を替える。
由香里の手を握り、語りかける。
「俺、。
初めて作ったよ、、
今日バレンタインデーだからさ。
美味しいか分からないけど、、
俺。。」
気付けば、寝てしまった様だ。
由香里がこうなってから。
まともに寝れた事は無い。
仕事もずっと休んで、、
ただ。
由香里に会いに来た。
夢の中で、由香里は喜んだ。
「なあに。これ?」
「作ったんだ。
俺、、君の事が大好きなんだ。
愛してる。。」
由香里「私もよ、、?
ありがとう。」
涙で濡れた頬。
頭を撫でる感覚、、。
「!っ、、!?」
由香里「おはよう、、」
強い風に吹かれた髪を。
由香里は耳にかきあげた。
「由香里!!」
由香里「どうしたの、、」
優しい手が俺の頭を撫でる。
子供の様に泣きじゃくる俺を見ながら、
優しく微笑む天使がそこには居たのだ。
ハッピーバレンタイン。
ハッピーバレンタインデー 影神 @kagegami
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