water line.

冬春夏秋(とはるなつき)

ウォーターライン


「『リッターオルガン』というものをご存じかな。……そう。提唱者ていしょうしゃが無名だから知らなくとも不思議はない。そもそも『鍵盤オルガン』というのも印象アップのための発音で、本当は『臓器オーガン』が由来として正しい。……ふ、どちらにしても思い浮かぶモノはなさそうだ。ではこの言葉は? 『心にあらず』。いや馬鹿になどしていないさ、言葉遊びみたいなものでね。いま思い浮かべたその意味は『集中できていない状態』だろうが、それで合っている。間違い、というか別の持ち出し方をしたのはわざとだ。


 ところで『胸が高鳴たかなる』という経験を?――結構。恋のひとつでもしておかないと人間なんかは甲斐がいがないからね。まァ恋でもスリルでも、原因はなんでもいいんだ。とどのつまり、リッターオルガンとはその反応に対するアプローチでね。『胸とは』、というものさ。


 この話を覚えていて、なおかつ余裕があればでいい。次に胸がキュンとした時に少しだけ考えて欲しいんだ。そのキュンうごきは、本当にに起こったのか、と。――そしてそれが心臓そこのすぐ近くの、別の部位ばしょだったなら。この概念がいねんはほんのちょっぴり、味わいをみせるだろう。なにせ解剖学かいぼうがく的には人間の心臓に隣接りんせつしている臓器などないんだから。


 これがリッター博士の提唱した、存在はしているが観測できない架空かくうの臓器。心臓に限りなく近くて、けれども決定的に違う『ココロ』の置き場。

それが『幻想臓器リッターオルガン』。


 退屈な話に付き合わせてしまって悪かった。最後に一つだけ。知っているかな?


 ――『心』という字は、全てのかくが触れ合わずにできているんだ、面白いだろう?』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る